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「いじめ?」
妻がシッと、猿を追い払うような音を立てる。確かに、大声で聞き返すには不謹慎な言葉だった。
「なんでまた急に」
「遼くんのズボン、血がついてるのよ」
思いも寄らない密告にまた声を上げそうになったが、妻にしかめっ面で睨まれた。妻の顔の真似をしながらグッとこらえる。
「どのくらい?」
「ちゃんと見えなかったけど、多分、これぐらい」
妻は軽く掌を広げて見せてきた。しかし、自信なさげに口をすぼめている。
「見間違いじゃないのか?」
「見間違いじゃないわよ。青いズボンがすっごく赤くなってたんだから」
「でも、ちゃんと見なかったんだろ?」
「だってー、脱いだ服ゴソゴソ見られるの嫌でしょー? お風呂のドア磨りガラスだし、脱衣所で何かやってるのって、シャワー浴びてても結構分かるのよね」
「そんなこと気にするほど、まだ思春期って歳でもないだろ。ていうか血って。あいつ、怪我なんてしてなかっただろ。晩飯のときも、別になにも言ってなかったし」
「馬鹿ね、言うわけないじゃない」
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