事件

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 遼は派手に湯船の湯を()き散らし、意表を突かれたように振り向いた。湯の中に潜っていたため、脱衣所の気配を感知しなかったのだろう。  やはり、様子がおかしいのは確かかもしれない。 「なに?」 「立て」 「なんで?」 「いいから早く」  遼は怪訝(けげん)な顔をしながら立ち上がった。ご丁寧にこちらを向いてくれたが、見たいのは正面じゃない。 「はい、その場で一周」  湯船を揺らしながらヨタヨタと回る。  小五にしては背は低いほうだが、俺の遺伝をちゃんと引き継いでいれば、中学から見る見る伸びるはずである。 「うん、大きくなったな」 「え、それってどっちが?」  浴室に俺の不敵な笑みを残し、勢いよくドアを閉めてやった。  それにしてもなんだ、この赤いシミは。  もう一度ズボンを手にとって眺め、指で押さえて湿気具合を確認したり、匂いを嗅いでみたりする。
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