事件

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「おい、遼」  俺を止めようとする妻を制し、バスタオルで髪の毛を拭きながらリビングに戻ってきた遼に声をかけた。半年前は、風呂から上がってしばらくは上半身裸が当たり前だったのに。 「ねえ、さっきのなんだったの?」 「そんなことより、あのズボンの赤いシミ、友達の鼻血だろ?」  遼は明らかに目を泳がせた。俺は矢継ぎ早に迫った。 「友達がお前のケツに突っ込んで鼻を打ったんだろう。体育はラグビーかアメフトだったのか? 今の小学校の体育はそんなこともするのか」 「う、うん! そうそう、そうなんだよ!」  遼は思い出したように飛びっきりの笑顔を作った。 「その友達は大丈夫だったか?」 「うん。大事をとって早退してたけど、多分大丈夫。水で洗ったんだけど落ちなかったや。ごめんね、洗濯、大変だと思うけど」 「いいのよー。なあーんだ、そうだったの」  妻にいつもの笑顔が戻った。俺は安堵のため息を漏らす。
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