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此度の作戦は情報の聞き取りだ。二人の所属、〈参鳥派〉が仕える城主が敵対する城の動向を知りたがっている。たんなる合戦の情報だけでなく、その裏に潜む忍の動きもあわせて入手するのが任務だ。
同業の情報を得るのはなかなかに困難。そこで、辻里は忍を使役する立場にある侍に取り入る策を立てた。
絢鷹にも芸がある。幼いころからみっちりと、辻里に仕込こまれた。
育ての親でもある辻里は芸事に長けている〈鉢屋衆〉の抜け忍だ。参鳥で育った絢鷹だが、〈参鳥〉の技だけでなく〈鉢屋衆〉の技も習得してあれば、忍として重宝されるだろう。後々、何があっても――例えば〈参鳥〉が解散するようなことがあっても食いはぐれることの無いようにと、辻里の親心だ。
円らかな瞳に白い肌。艶のある髪をした絢鷹には華がある。
白拍子に扮した絢鷹を連れ、城下を賑わせばきっと城に召されるだろう。辻里の笛の音に合わせ、ひとたび白拍子を舞えば目論見通り城下ですぐに持て囃された。
町人の騒ぎを聞きつけたのだろう。その日の晩、さっそく城の使いが宿に訪ねてきた。
翌日にはまんまと城内へ招かれ、万事上々の運びだ。城主の御前で芸の披露は明後日と決まり、それまで客扱いときた。中一日もあれば任務も実行できるだろう。
辻里が城内を探る間に、絢鷹は無邪気を見せかけ城内をうろうろ歩き回る。もちろん、取り入る相手を探すためだ。
さっそく方々で侍が、すれ違いざま袂に文や菓子などを忍ばせてくる。
そんな中、直に声をかけてくるものがあった。定め柄の染小紋を着た位の高そうな侍だ。
「おぬしが噂の芸子か。どうだ。不自由はないか」
(決めた。この人にしよう)
絢鷹が的にした男は竹村という。侍だ――と思っていたがどうやら同業ものらしい。幾つか言葉を交わしているうち、ふいに、竹村が耳打ちをしてきた。「俺も元は〈甲賀者〉だ」
言うが早いか絢鷹の懐から仕込み扇子を抜き取り、代わりに覚書を差し込む。
「返して欲しくば、夜半、俺の部屋に忍んで参れ」
そして何事もなかったかのようにきびきびと去っていった。
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