かくのごとし 二

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 夕餉(ゆうげ)のあと、用意された部屋で落ち合うなり辻里(つじり)矢羽根(やばね)の音を出す。 『そっちはどうだ?』  辻里(つじり)もやはり警戒しているのだ。矢羽根(やばね)は暗号術の一種。特殊な息遣いで仲間にだけ判別できる音を出し会話する術だ。この様子では敵の(しのび)がウヨウヨしているのだろう。 『それが……』  絢鷹(あやたか)は昼間の一連をすべて話した。 『ふむ、どうしたもんか。――だがこうも考えられる。元甲賀者という事はそいつ自身、日和見なのではないか? まだ失敗ともいえぬ』 『むしろ話が早いかもしれません。俺、行きます』 『――お前、いくらも経験がないだろう。何度やった?』 『一度です。でもまだ竹村さまが夜伽を所望されているとは限りません』 『いや。限る』 『……そうでしょうか……』 『俺に見られるのが気恥ずかしくないのか』  思わぬ問いに面食らう。口元を押さえ、絢鷹(あやたか)はふふと笑い声をこぼした。まさか辻里(つじり)からそのような言葉がかかるとは。 『恥ずかしくありません。私だって……すでに辻里(つじり)さまが女と睦み合う姿を見ていますから。それに、やることは変わらないでしょう?』 『ただなぁ、修錬の手はずとはわけが違う。……ましてや相手に同業だと知れていると、手酷く扱われるかもしれんぞ』  なんとも皮肉ではないか。絢鷹(あやたか)の、初夜の手ほどきを避け、ほかの男に抱かせたのは誰でもない。辻里(つじり)本人だと言うのに。  そんな気づかいなど欲しくない。  ため息交じりに首をふる辻里(つじり)が腹立たしい。 『――別に……酷くされても構いません』  かえって焚き付けてしまったか。思わず不用意に言ってしまったが、絢鷹(あやたか)が子供扱いされるのを嫌うことは知っている。だがふてくされた顔はなおさら童のようだ。  確かに、ここで引き下がるのは得策ではない。それでもやはり、どうにも。  任務とはいえ絢鷹(あやたか)が乱暴されるのは辻里(つじり)にとってはあまり気分のいいものではないのだ。  分かっているもののどうにも気が進まないが、せめぎ合うなんとも言えない感情を拭い去り、辻里(つじり)は決めた。 『――よし。では行け。隣の部屋は空き部屋だ。俺が書きとるから気にせず探りを入れろ』 『はい』
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