かくのごとし 二

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 渡された覚書を頼りに、長い廊下を辿ると目当ての一室がある。障子越しには揺らめく行燈の灯りと人の気配――。絢鷹は深く息をして緊張を吐き出した。 「……竹村さま……。扇子を頂きに参りました」 「入れ」  招かれた部屋は八畳ほど。中央に布団が一組敷かれている。そこに寝間着姿で身を横たえ、晩酌をする竹村が待ち構えていた。 (……辻里(つじり)さまのおっしゃった通りだ……。やる気満々だな) 「お前、草(忍の俗称)だろう。昼間の白拍子、垢ぬけてはいるが古臭い鉢屋(はちや)の芸だとすぐに分かった」 「私の口からは申し上げられません……お察しください」 「そうだろうな、下っ端め。連れの放下師(ほうかし)が親だな。あいつと取引がしたい。どうせそこらに潜んでいるのだろう」 「……」  この筋書きも辻里と打ち合わせたうちの一つだ。慌てることはない。「でてこい」と、竹村が言うと障子に影があらわれた。 「お前は下がっていろ」  影を見留めた竹村が絢鷹に指図(さしず)する。すっと障子が開くとそこには辻里の姿があった。  障子越し、じっと息を凝らしても不思議と話声はない。熟練の忍び同士、矢羽根(やばね)も使わずどのように音もなく会話をするのか、覗いてみたくもなるが命令は絶対だ。  絢鷹がどんなに意識を集中させても室内からは身じろぎすら感じられなかった。  随分長く感じたが、半時ほどで障子が開いた。 「待たせたな。絢鷹、来い」  絢鷹を呼んだのは竹村の方だ。部屋を後にする辻里はすれ違いざま絢鷹に目配せる。 『話はついた。このまま竹村の相手をしろ。無理をすることはないができれば本名を聞き出せ。それだけでいい』 『はい』  ――こうして、竹村の(しとね)で尻を出しているわけだが、身を崩すほどの快感に絢鷹は焦りを感じていた。 (……っ……そうだ……は、話を……しなきゃ)  気を抜くと本分を忘れてしまいそうだ。
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