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「ちょっ……待って……」
あまりに息苦しくて、楓の肩を押し退けた。ハァハァと荒い息を繰り返す俺を、楓は少し不満げな表情で真っ直ぐに見つめている。
そんなに見つめるなよ。
何で今日は目をそらさないんだよ。
そんなに見つめられたら、顔も身体も熱くて熱くて仕方ない。
あー、また染められる。真っ赤に染まって今にも燃えてしまいそうだ。
耐え切れなくて、俺が視線をそらした。このままだと本当に燃えてしまいそうだったから。
俯く俺に楓はハチミツみたいな声で言った。
それはもう甘い甘い声で。
「なぁ、後でもう一回リンゴ食ってもいい?」
「え? ……どっちの? ……」
「そんなの決まってんだろ……」
その言葉に顔をあげると、そこには俺と同じくらい今にも燃えそうな真っ赤になった顔があった。
勘弁してくれよ。
おまえのハチミツは甘過ぎる。
リンゴがとろけてしまうくらいに……。
あぁ……でも、それならいいのか。
それならきっと、もうあの音はしないから。
シャクッ……
楓はいつの間にか落ちていたリンゴを拾ってかじりついていた。
「おい!そっちかよ!」
思わず声をあげた俺の顔を見て、楓は豪快に笑った。
可愛い八重歯を覗かせて。
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