リンゴとハチミツ

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リンゴとハチミツ

シャクッ 「うっ……やめろ……」 シャクシャク 「……やめろって……もう……」 シャクシャクシャク 「うぁーあーあーあーあー!」 「ふっ……あー美味いわー。甘酸っぱくて最高ー。」 両手で耳を押さえる俺の隣で、真っ赤なリンゴを丸ごとかじりながら、楓(かえで)はわざとらしく大きな声で嬉しそうにそう言った。 俺は耳を押さえたまま、ニヤニヤとした笑みを浮かべて俺を見る楓を睨みつけながら、開いた口の奥に見える八重歯をずっと見ていた。 綺麗な顔をしているのに、その顔をクシャリと崩して豪快に笑う姿とか、その時に見える八重歯とか、楓の笑顔は何もかもが可愛くて愛おしくてたまらない。 座っていてもわかるすらりと伸びた長い手足や、制服のシャツがストンと降りる平たい身体、少し長い栗色の髪を大きな手でかきあげる仕草……そのどれもが俺にはキラキラと光っているように見えて、何て言うか……何をしていても絵になるんだよなぁ……なんて絶対口には出来ないような事まで思っていたりして。 怒っているフリをして、睨むフリをして、ここぞとばかりに見つめている。 楓はきっと、俺がこんな事を考えているなんてきっと知らないんだろうな…… 当たり前のようにおまえの隣にいる事がどれだけ奇跡的なのかなんて……。
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