リンゴとハチミツ

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藤沢 楓 (ふじさわ かえで)は俺の恋人で、って言ってもそんな関係になったのはつい3ヶ月前のことだけど。 中学で出会い、ずっと親友だった俺たちは恋人関係になったからといって特に何かが変わる訳もなく、相変わらずバカな事を言い合ってはヘラヘラと笑っていたりする。 不思議なくらいに何も変わらない関係は居心地が良くて、ずっとそうだったんだからこのままでいいよな……このままがいいよな……みたいな感じで。俺も何も言わないし、楓も何も言わないけど、多分同じ気持ちだと思う。 でも強いて言えばそうだな……〝触れ合う〟ことが増えた。という事くらいだろうか。 だって俺たちは健康な高2男子で、それはもう多感な時期なものですから。それはもう、そうゆうお年頃な訳ですから。好きな相手が側に居たら、当然のように触れたくなる。触れたくて触れたくて仕方がなくなる。 元々他の友達に比べればスキンシップはお互いに多い方だった……と思う。今考えたら、俺も楓もどうにかして互いに触れたかっただけなんだろうけど。 朝、教室で顔を見たら「おはよー。」って言って俺の髪をクシャリと掴んだり、後ろから覆いかぶさってきたり、挨拶とセットでどこかしら俺の身体に触れる楓に「おう。」とか適当に相槌を打ちながら、何をされても一度も拒んだ事なんてなかった。拒むどころか嬉しくて、内心は心臓がバクバクで今にも飛び出しそうなのに、何にもないような平気な顔をして他の友達に話しかけたりなんかして。 俺は野球部で、楓は帰宅部なのに、週の半分くらいは一緒に帰っていたり。残りの半分は楓のバイトがある日で、要するにバイトのない日はいつも俺の事を待っていてくれた事になる。楓は待っているなんて一言も言わなかったけど、いつも「何してたんだ?」って聞いても「別に。適当に過ごしてたらこの時間になった。」とか言っちゃって。 何をすれば19時近くまで学校に残る事なんてあるんだよ。って内心思いながらも口にはしなかった。 俺は練習に夢中で気付いていなかったけど、たまにグランドの隅に居た事もあったらしく、野球部内では、楓はマネージャーの今井さんの事を好きなんじゃないか。なんて噂まで広がっていた。 楓はそんな噂なんて全然知らなかったみたいだけど。俺も言わなかったし……言えなかったし。だって本当にそうだったらって思ったら胸が苦しくて仕方なかったから。 そんなモヤモヤした気持ちを抱えていても一緒に帰っていたのは、少しでも一緒に居たかったから。歩く度に肩が触れあっていたから。帰り道にあるガードレールが続く狭い歩道に、2人並んで歩いたらそうなる事はわかっていたのに、俺たちはいつだって並んで歩いていた。 なんて、思い出すだけで赤面するような事例はいくつもあったりするのだ。 だけど今はもう、相手の顔色を伺ったりしなくても堂々と触れられる。拒まれる心配なんてしなくていい。 とは言っても……まぁせいぜいじゃれ合うくらいなんだけど。抱き締めたり、軽いキスをしたり……その程度。 その「じゃれ合い 」をする為にお互いの家に行く事も増えた。部屋に入ると必ず鍵は閉めたし、もれなく毎度、毎度、緊張し過ぎて無駄に汗もかいたりして、「その程度 」なんて言っておいて俺にとっては全然その程度ではなかった。 そんな俺を優しく笑って見つめる楓の眼差しが何だか少し悔しかったり。 「なんでおまえはそんなに余裕なの?」って……。
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