リンゴとハチミツ

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でも……楓は余裕があって笑っていたんじゃなくて、むしろその逆で、取り敢えず笑う事しか出来ないくらいに緊張していたんだって事に最近気付いたんだ。 だって、触れた手はとても熱くて汗ばんでいたから。 首筋に手を伸ばすと、微かに肌がビクッと震えるから。 ジッと見つめると、向かい合った視線に耐え切れなくて目をそらすのはいつも楓の方だから。 こんな風に楓の行動ひとつひとつにちゃんと気付けるようになった俺は、ほんの少しだけ、本当にほんの少しだけだけれど、余裕を持てるようになったのかもしれない。 付き合う前は自分の気持ちを抑えることだけで精一杯だったから。些細な出来事に一喜一憂しては胸を踊らせたり、痛めたり。 ただ一緒に居るのが楽しくて、学校からの帰り道に立ち寄ったコンビニで2人でアイスを買うだけでも幸せだった。出来るだけ長く、1秒でも長く一緒に居たくて、買いたいアイスは決まっているのにわざと悩んだフリをした事もあった。 3年前に誕生日にもらったリュックも、もらった時は嬉し過ぎて、ちょっと泣きそうになってしまった事は今でも秘密だ。 恥ずかしいから本人の前ではあまり持たないようにしていたけど、使い込み過ぎてもうボロボロになっている。 それでも、これからもずっと使い続けると思うんだ。楓がくれたものなら、感情だって、物だって、俺にとってはどれも宝物だから。 楓はどんな気持ちで俺と一緒に居たんだろう。どんな気持ちでアイスを食べていたんだろう。どんな気持ちでリュックを選んでくれたんだろう……まだまだ知らない事も聞きたい事も沢山ある。聞いても教えてくれないかもしれないけど、いつか知れたらいいな。 楓の全部を俺は知りたい。
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