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その想いだけでも
拝啓 勇者サトル様。
こちらセルブルダード王国では、サトル様の故郷でも咲いているというサクラが満開の季節を迎えました。
サトル様の戻られたニホンという国でも、恋の色のごとき淡い花が咲き誇っている事を願っております。
サトル様は平和と聞くニホンに戻られて、いかがお過ごしでしょうか。
魔王を倒すため、共に旅をした３年間は非常に辛い旅路でしたが、わたくしセリーナにとっても、そして魔王の脅威にさらされたセルブルダード王国やその民たちにとっても、何事にも代えがたい、かけがえのない時間でした。
サトル様が魔王を打ち倒された後は、同じパーティーメンバーだった宮廷魔術師のダンブルスと共に街を周り、今では国もかつての賑わいを取り戻しつつあるのを実感しております。
我が国に伝わる勇者召喚の儀式魔法がサトル様をお招きした時とは、まるで別の国のような活気があふれているのですよ？
お戻りになる間際まで、この国の未来を憂いておられたサトル様にお見せできないのがとても残念でなりません。
せめて勇者召喚の儀式魔法が、その目的である魔王討伐を成就すると同時に解かれるというのが、あの時わかっていれば、ダンブルスの魔法で街を見てまわるぐらいの時間は稼げたと思うのですが……いいえ、あのような突然の別れになってしまわれて、驚いたのはサトル様の方ですよね。
それなのに国を、世界を救っていただいたわたくしが、このような事を言うのは我儘と言う物です。
願わくば、サトル様がニホンに帰られたその後、魔王討伐の旅のような血に濡れた旅ではなく、夢だと語られていたシャシンカになるための平和な旅に出られますようにと、女神セルジュ様にお祈りさせて頂きます。
……届かぬ手紙と理解しながらも筆をとらずにはいられませんでした。
どうかこの手紙に込めた、その想いだけでも届く事を祈って。
セルブルダード王国 第一王女
セリーナ・フォン・セルブルダード より、秘めし愛を込めて……
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