打ち上げ花火

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なんて、他に誰がいる。 「うん。そこの君」 (ですよね~) 「なんで、ブルーフレイムっていうの?」 「青く光るからじゃないですか?」 「なんで光るの?」 「ん~。、、、さあ、、、」 「そ。じゃさ。こいつ、なんでこんな形してんの?なんかウン、」 「あー!ちょちょちょ。ストップ!」 「ああ。ごめんごめん。あははっ」 「女の子が下品なことを言うもんじゃありません」 「あはははは、わりぃ、わりぃ」 つられて僕も吹き出した。 岸辺の方から人の気配がした、大学生位のカップルがこちら側に向かってくるのがわかった。 「ねぇ。君、名前は?この辺の高校?」 「え、ああ。そう。近くの館高。青木って言います」 「あ、やっぱり。あたし、今度そこに編入することになったので、よろしく。梨花だ」 「三年生ですか?」 「ううん。二年」 「じゃあタメだ。僕は三組なのでい、」 (一緒になれたらいいね) って言いかけて、口ごもった。 かなり恥ずかしくないか? たった今知り合った子に、、、 「ねぇ。写メとってよ」 そう言いながら彼女は自分の携帯を差し出した。 まあ、断る理由はないから、釣り道具置いて彼女の携帯を受け取る。 ポーズ決めてる彼女にピントを合わせた。 「はい、撮るよー」 我ながら、なんともダサい掛け声だ。シャッター音がして、 「もう一枚」 撮る。パシャリ。 いたずら好きのリスのような表情で、くりっとした大きな瞳が僕を見つめてくるのが、気恥ずかしい。 正確には僕では無くて、携帯レンズ見てるだけなんだけど。 何となく、、、 いや、正直言うと意図的に、 彼女のトップ写真撮りたくなって、アップにしてたら不意に背後から、 「あのー」 と声かけられて、ビクッとなった。 「よかったら、撮りましょうか?」 「え?」 振り向くと、さっき歩いて来てたカップル。 髪が長くてオシャレな綺麗系お姉さんの方が、僕に優しく微笑んでいる。 うわ!ってなる。 田舎もんの純朴な高校生には、垢抜けた都会の雰囲気(かも)し出す女性なんて、免疫力無さすぎて困るしかない。 「あ、いや、僕達そういう関係じゃなくてですね、、、」 しどろもどろになりながら弁解しようとする。 その僕の腕を、急にグイッと引っ張り、割って入る梨花。 「ありがとうございます。じゃ、お願いします」 「は?」 「いいじゃん。別に。あははっ」 僕の手から携帯ひったくり、お姉さんに渡してグイグイ後退するのだから、僕は、とっとっとって変な片足ステップ踏んで、まるでアホ丸出しなダサ男。 腕絡ませてくる梨花に、凄くドキドキして、頭の中はもうパニック。 どういう状況?これ、、、? 「はい、撮りますよー。チーズ」 終始動揺して、視点が泳ぐ。 彼女の腕の感触が、意識しないようにすればする程、してしまう。 僕と彼女の腕の接地面積に、集中してしまう。 あぁ、柔らかいなぁ。 なんて、変な妄想してしまう。 アホな男子高生。 、、、そう僕だ。 「ありがとうございまーす。よかったら、お二人のも撮りますよー」 って梨花は言うと、お姉さんに駆け寄ってきゃっきゃっとはしゃぐ。 彼女の明るさは、周りにも影響与えて不思議と和む。 一種の彼女の才能なのだと、僕はその時、思った。 手を振ってお姉さん達に見送られながら、梨花と並んで歩く。 今更、あ、自分の格好、かなりダサくね?とか、魚臭いの気にされてたらどうしよう、とか思いながら、横目でチラチラ盗み見る。 全然気にしてないみたい。 というより、僕の存在自体忘れられてる。 携帯画像見てニヤニヤしてる。 「ね、ほら。イケメン。撮れた」 ニンマリ歯を見せながら、さっきのツーショット画像を僕に見せてくる。 「うわっ。変な顔。(ひど)いな」 「えー?そーお?」 「恥ずかしい。消して?」 「やだべーー。ね、メアド。交換しよ。画像送るよ」 「あぁ。うん、、、」 って、なんだ。この展開。 スゴく自然な流れ。 ひょっとして、もしかして、、、 僕のメアド目的、、、なのか? いや、まさかね。 そうして、僕は梨花のメアドをゲットしたわけだ。 その日初めて知り合ったショートカットの明るい女の子。 自然と僕の鬱積した胸のつかえを消してしまう、不思議な()。 それが梨花だった。 歩道へ出て。 「じゃ、ここで。僕は直ぐそこのカフェが自分ちだから、、、」 「え?マジ?いいなぁー。今度お茶しに行っていい?」 「うん。ぜひ」 「ありがと。じゃ、私あそこだから、、、」 そう言って、山の斜面に建つ一際目を引くホテルを指さす。 「え?オーシャンビューホテル?」 「うん。まだ住むとこ決まってないのよ。実は!あはは」 この時だけは、変わらない明るい笑顔の瞳に陰りがあった気がする。 もうすっかり景観は、夜景の演出を始めてる頃合だった。 海辺の田舎臭さが暗くなるにつれて、薄れていく。なんともロマンチックな町並みに映る。 いろんなものを保留にして、 月あかりが輝きを主張する。 紫色のセロファン越しのような景色へ、 溶け込むように遠のいてく後姿を、 しばらく見つめながら、 いつもと変わらない波の音が、 なぜだか心に優しく馴染んだ。 メールの通知音。 開くと件名に、 『またねー』 と書かれている。 さっきまで、テンション下がってた自分が、急にバカバカしくなってきた。 「あほくさ」 って(つぶ)いて、笑った。
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