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僕の実家は千葉の館山でカフェを営んでいる。
あまりにもベタな名前『Cafe Nagisa』
赤茶色した平べったい屋根に白い壁の、外装も内装も普通。どこにでもあるような、田舎の喫茶店だ。どうってことは無い。
ただ、国道を跨いだ海岸線沿いには、名前のある海水浴場や観光地が間近にあるから、梅雨明けすると、しだいに海水浴やら観光やらで人が増える。
お陰で結構繁盛していた。
僕も小遣い稼ぎで、手の足りないランチ時なんかは手伝ったりする。
まあ僕の場合、接客向きでないから、キッチン側に立つ。
夏休みに入ると何人かバイト雇ったりするので、僕のは、まあ、猫の手ぐらいかもしれない。
ウチの窓からも見える桟橋があるんだけれど、
館山夕日桟橋って名前がついてる。
相模湾を一望出来て、眺めが良い。
天気のいい暇な時なんかは、そこでちょくちょく釣りをする。
地元では有名で、観光客やカメラマン、釣り好きがやってくる。
ただしこの時期、無茶苦茶暑い。
帽子かぶってタオル巻いても日に焼ける。釣りもせいぜい2時間ぐらい。
桟橋のどんずまりが僕のお気に入りの定位置。
ラジオ聴きながら、小鯵や鰯なんかを釣って、日が沈む頃には帰って、飯食って寝る。
そんな日々だ。
そしてよく、イヤホンから聞こえてくる向こう側の人の事を考えてみたりする。
僕とは違う、知らない別の人。
当たり前の事なのに、なぜだか親近感沸いて、勝手に運命感じたり、奇跡的な出会いだと思い込みたい自分がいる。
異性となると、もっと症状は酷い。
自分の脳内、都合よくお花畑に開拓してしまう。
「あほくさ」
って言いながら、鼻で笑う。
たしか、昨日は『死ねよ自分!』って言ってたっけ、、、
いつものように釣り糸たらしながら、ラジオの話なんかどうでもよくなってきて、違う事考えてた。
この果てしない海の中では、だだ本能と習慣のみで生活が成り立ってる。
それが普通で、当たり前のこの世界で、
なぜ人間だけ、『なぜ?』って考えてしまうのか……
何も疑問を抱かずに、だだその場その場で自由に泳いで生きて、死んでいければ、楽なんだろうな。
そんな生き方、死に方が羨ましい。
いちいち悩まなくて済む。
なんだか最近は自分らしくない。
そもそも『自分らしいってなんだ?』という問いは棚上げする。
そういう事にいちいち引っかかるのが、自分らしいと言えば自分らしいと言えるのかも。
これからの将来や進路の事を、周りからちゃんと考えて、ちゃんと決めろと言われてるのが鬱陶しいせいか、高二の夏休み、青春真っただ中に入っても気持ちがスッキリしなかった。
いや、そもそも論。青春なんてそんなもんなのかもしれない、、、
今日の成果はキス八匹アジ五匹。
刺身にするか、揚げ物か、、、
なんて考えながら、だんだんと沈んでゆく夕日に背を向ける。
帰り際、桟橋の中間まで戻ると、僕と同い年ぐらいの娘が、ブルーフレイムをニヤニヤしながら観察していた。
ブルーフレイムというのは、青くて水玉のような形に、パッチリした目がついてるモニュメント。大きいのと中くらいのが、つがいでくっつき合っている。
観光客向けに作られた置物で、ホタルイカが発光する青い光。オスが求愛する時も発光するらしいんだが、、、それをブルーフレイムって言う。のだそう、、、
『愛が産まれる場所』とか書かれてる看板置いて、桟橋の真ん中に展示してある。
ゆるキャラ、、、なのかな?
「あははっ。ウケる」
( 、、、そんなおもしろいかな、、、)
チラ見しながら彼女を観察してみる。
艶のある黒髪のショートボブが、綺麗な顎の輪郭線に沿ってさらりと靡いている。スタイルがすごく細身でカッコイイ、それでいてしっかり体幹のとれた立ち方が、なんだかモデルみたいだ。
ブルーフレイムを携帯で撮り始めた。
やっぱりこの辺の人じゃないな、なんて思っていたら、、、
「ねぇ。ソコの君。ちょっといい?」
驚いて、僕のことか?
って思い、周りを見渡す。
やっぱり僕しかいない。
おそらく間抜け面してるであろう自分。
その面を指さして、
「はい?、、、僕ですか?」
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