まばゆい光を放っていたそれは

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まばゆい光を放っていたそれは

「ご、ごめんなさい」  女性は慌ててリンフォルへ駆け寄り、右手をかざす。その手はキラキラと淡く輝き、光は広がっていく。徐々に大きくなった光は、リンフォルの肢体を包み込む。  ディミヌもフォルテも初めて見る光景のようで、目を丸くしている。  まばゆい光を放っていたそれは、次第に溶けるように消えていく。  次の瞬間、リンフォルは目覚め上半身を起こす。 (なんだ、これ……)  ほのかに残る輝きを呆然とリンフォルが見ていると、 「リンフォル!」 「リンちゃん! だ、大丈夫?」  フォルテとディミヌがハッとして声をかける。 「え? あ、うん」  返事をしたものの、一番信じられない様子のリンフォル。光に包まれたリンフォルも、初めての経験だったらしい。 「ってか、俺、今さっき……すっごい吹き飛んだよね? 衝撃があったような気がするんだけど、痛くないし、むしろなんだか体が軽いんだよね。ん? 生きているよね、俺?」  あははと笑い、今度は両手を見て、閉じたり開いたりしている。 「生きていると思う。頭の上に天使の輪がないし。ね、フォルテ」 「ああ、むしろ天使になれるチャンスを逃したと思えば残念だったかもしれないがな」 「ふたりともー、安心してくれたのはうれしいけど、もうすこしやさしくしてくれてもい~んじゃないかな~」  あははと笑いに包まれ、女性も安心したかのように胸をなで下ろす。  一方、リンフォルはやはり半信半疑のようでキョロキョロとし、床に目を止める。  床には血が飛び散っていた。それを指でたどる。 (さっきの強烈な痛み……は、やっぱり。これは、俺の血だ)  顔を上げ、目の前の女性を見てへらっと笑う。 「ねぇ、今のって……全回復魔法?」  軽い口調だが、女性は戸惑う。その様子を見て、リンフォルは明るい声のまま、まくし立てるように言う。 「魔法ってさ、術者の使用頻度とレベル、術自体のレベルによって発動時間が違うじゃん。でも、そうは言ってもさ、これだけの魔法……それなりに暗唱や、術の名前を『発音として出さない限り』普通は魔法が発動しないよね? 俺も得意な移動魔法は会話しながらでも発動できるけど、中級魔法ていどのものなんだ。でもさ、全回復魔法は、会話しながら発動できるような魔法じゃないし、そもそも使える術者は珍しいよね。例え、長~~~い暗唱を唱えるにしても、さ」  まくし立てられるように言われたせいか。女性は返す言葉がみつけられないといった感じだ。  すると、戸惑っている女性の代わりに口を開く者がいた。 「さすが……レベル一万」  フォルテだ。  フォルテには、魔法の知識がさほどなかったのか。リンフォルの言葉を聞き、納得したかのように呟いていた。 「い、一万!?」  リンフォルは驚きを隠さずに叫び、たじろぐ。  どうしてそんなのがここにいるんだと言わんばかりに、フォルテを見る。  フォルテは、ディミヌに視線を向ける。その視線はディミヌが拾って来たんだと、言いたげだ。しかし、リンフォルは今更ながらに思い出す。  (確か……)  そう、倒れていたのを見つけたのも、移動魔法でここに連れて来たのもリンフォル自身であったことを。 (ごめん、ディミヌ! フォルテはディミヌが拾ってきたと思っているから、そうしておく)  さて、リンフォルがフォルテに隠しておきたいことがまたひとつ増えたところで、ディミヌが女性に近づいていた。女性の背後にちょこんと座ると、指でつんつんと女性をつつく。  つつかれた女性は驚いて背を伸ばし、振り返る。──蘇る悪夢に青ざめたリンフォルとフォルテをよそに、 「ねぇ、名前……教えてくれない?」  と、ディミヌは口を開いた。  のんきなディミヌの声がほんわりと浮かぶ。  女性は目を開いてディミヌを見る。──その様子を男性ふたりは冷や汗を拭いて見守る。 (どうしよう)  女性は困っていた。あまりにもディミヌが無防備で。 (ディミヌさんは『勇者』。レベルが低いとはいえ、『勇者』が職業のひとつとはいえ、公認勇者なら……志すものは、ひとつ、かもしれない)  女性が視線を泳がしている間にも、皆の視線は集まる。  気まずいと思いながらも、女性は観念し、口を開く。 「クレシェ」  うつむいて言われたちいさな声。  そのちいさな声に対し、聞いた者たちの衝撃は激しい。 (クレシェ!)  リンフォルとフォルテは白黒になり、目が棒になる。理由は簡単。 『クレシェ』という名は、『魔王』の名だ。  フォルテとリンフォルは、離れたまま、暗黙の会話を交わす。 (『クレシェ』って……魔王の名前、だったよな)  フォルテのなんとも言えない視線をリンフォルは必死に読み取り、目でうなずく。 (さっきの俺の受けた衝撃と、全回復魔法の発動! 間違いないでしょ!)  すでに女性の実力に疑いようがなく、『クレシェ』と名乗られたら否定のしようがない。
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