第1章 花嫁選び・第一日目

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 「純情な弟を、あまりからかわないでいただきたいですね。  どこぞのド田舎でお育ちになった貴女と違い、この王宮で純粋培養された、それは心が綺麗で繊細な男ですので」  頭上で皮肉っぽい声が聴こえ、あたしは咄嗟に身構える。  王太子のエセルバルド王子が、その端正な顔に小馬鹿にしたような笑みを浮かべて、ガラス窓に背を預けて腕を組み、こちらを見ている。  見た目だけは、悔しいけどすっごくカッコいい。  こんなに容姿端麗な王子っているんだ、とビックリした。  お兄様がよく「エセルはとても見目美しいのだよ。同性の私でも見惚れてしまうことがある。機会があったら、ぜひそなたにも会わせたい」とおっしゃっていた。    だけど侍女のアンナは「フェルディナンド様より美しい王子なんているわけがない」と言っていたし、あたしもそう思っていた。  「兄上…」とオズワルド王子が困ったように呟く。  あたしは、挑戦的に瞳をきらめかせて長身のエセルバルド王子を見遣る。  悪口の応酬なら負けないわ。  日ごろ、口の悪いアンナに鍛えられてるからね!  「ご忠告、痛み入ります。  野山を駆けまわって卑しい野生児のようにお育ちあそばされた方のお言葉は、重みがございますわね」  立ち上がって優雅に頭を下げ、また腰かけて、今度はオズワルド王子の方を向く。  「わたくしも王宮深くに匿われるようにして大切にされて育って参りましたので、オズワルド殿下とは初対面とは思えず、とても親近感を覚えますの。  もっとお親しくお近づきになりたい気持ちが(まさ)って、はしたない言動がございましたのなら謝罪申し上げますわ」    オズワルド王子に少し近づき、にこっと微笑む。  オズワルド王子は「エレオノーレ姫…」と顔を真っ赤にして、あたしの手を取った。    あたしはちらっと横目でエセルバルド王子に視線を走らせる。  王太子は呆気にとられたようにあたしを見て、それから悔しそうに唇を噛む。  ほほほ、ざまみろ。  そこへ「エセルバルド様!こんなところにいらしたのね!」とけたたましい声が聴こえて、何人かの着飾った若い貴婦人がなだれ込むようにテラスへ出てきた。  「どこに行かれてしまったのか、お探し申し上げましたわ!」  「大広間に戻っていらして!わたくしと踊ってくださるお約束ですわよ!」  と我先にエセルバルド王子の腕や身体に触ろうとする。  うへえ…  あたしはげんなりした。  たーいへんだな、花嫁探しの王太子も…  「はは、それは申し訳ない。  少し風にあたりたいと思いましてね。  さあ、お次はどなたでしたか?」  エセルバルド王子は人を逸らさぬ甘やかな笑顔と爽やかな口調で言いながら、取り巻く女性たちを引き連れて大広間に入っていった。  
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