第1章 花嫁選び・第一日目

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3.メガロヴルグ王国王太子・エセルバルド  「あーつっかれた…」  俺は呻いてソファに突っ伏す。  「お疲れ様でございました。  なかなかご立派なお振る舞いでいらっしゃいましたよ。  各国の姫君やご令嬢方も、エセル様の虜でございましたな」    小姓たちが俺に駆け寄り、長靴(ちょうか)を脱がせたり、剣を身体から外したりしているのを見ながら、オーウェンが満足そうに言った。  けっ。いい気なもんだよまったく…  俺は聞こえるように舌打ちする。  「それで、いかがでございますか」  着替えを済ませて椅子にどかっと腰かけた俺に、ホットワインを差し出しながら、オーウェンは人払いして他に誰もいない部屋の中で声を(ひそ)める。  「なにが」俺はワインを口に含んで、素っ気なく訊く。  「王様もお気になさっていらっしゃいました。  王太子はどの王女をお気に入られたのかと」  どれもこれも最悪だよ。  俺はワインを飲み干すと、グラスをオーウェンに突き出す。    オーウェンはグラスを受け取り、俺の方へ身体を寄せ、耳元で囁く。  「シエルヴィナ姫は…いかがでございますか」  でた。  やっぱり父上や重臣たちの推しは、ジェノーバラ大公国辺りか。  俺はオーウェンの顔を見て、目を伏せた。  シエルヴィナ大公女か…まあ、歳も近いし、一番無難っちゃ無難だな。  顔はイマイチだが、身体つきはなかなかグラマラスだし。  だがあのバカっぷり…自分のことばかり話して、まともな会話になったことがない。  俺は思わずため息をつく。  ふと、今日初めて会った王女が脳裏をよぎる。  エレオノーレ…だったか。  俺が言った皮肉に対する、素早くて機転の利いた応酬。    頭の回転が速いんだな。  しかしあの嫌味たっぷりな所作に口の利き方…見かけ通りの可愛らしく清純な女じゃないな。  フェルディナンドの妹姫にしちゃ、やけにひねくれているじゃないか。    くくっと笑いを漏らす。  面白い、あの女。  「どなたか、お気に召した方がいらっしゃったのですか?」  オーウェンの、期待を込めた瞳が俺を凝視する。  「いや、まだだな。  あと2日あるんだろ、慌てることはないさ」  俺は大あくびをして「もう寝るぞ」と言って立ち上がり、寝所へ向かった。  明日と明後日、まだまだ楽しめそうだ。  久しぶりに気分が高揚する。
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