第1章 花嫁選び・第二日目

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4.カロラング・アンティオ王国王太女・エレオノーレ  うぁぁ…眠い。  あたしは何度目かの欠伸をかみ殺す。  「エレオノーレ様、はいっ!息止めて!」  アンナが気合の入った声で言い、あたしはできる限りお腹を引っ込めて息を止め、拷問のような締め付けに耐える。  アンナは渾身の力をこめて、紐を締め上げた。  誰だコルセットなんて考えたの…  あたしは「もういいですよ」というアンナの声にふうーっと息を吐く。  他の侍女たちがさっと駆け寄ってきて、ドレスを着せにかかる。  「ねえ、あたしの番は午後の一番最後でしょう?  なんでこんなに早くから準備しなきゃいけないのよ…」  あたしは背中のたくさんのボタンをかけているアンナに訊く。  まだ正午回ったばかりだよ?!  王侯貴族にとっちゃ、まだ暁闇じゃないの…  アンナは上から下までボタンをかけ終わると、人払いをして侍女たちを皆下がらせた。  あたしの手を取って鏡台の前の椅子に座らせ、あたしの金の髪をそっと(くしけず)りながら「今朝早くに通達があったんですよ」と言う。  「第二王子の婚約者であるエレオノーレ様の謁見の順番は最後の予定だけれど、王様のお身体の調子を鑑みながら他国の王女様方と謁見なさるので、もしかしたら王様のお加減次第では予定時刻より早まるかもしれないと」  そんなに王様のお加減はお悪いんだ…あたしは唇を噛む。  まだ年若い第二王子の縁談まで急いでまとめようとしている、この国の事情が垣間見える。  「王様は、この度のオズワルド王子様とエレオノーレ様のご婚約を殊の外お喜びのようですよ。  オズワルド王子様付きの従僕のルウェリン殿がおっしゃっておられましたわ」  ま、当然ですけどね、とアンナは自慢げに呟く。    「カロラング・アンティオ王国と言えば、この国と同じかそれより強大な国でございますからね。  その大国の王太女様とご結婚できるなんて、第二王子としては身に過ぎた幸福でございますよ」  こらこら。  いくらここに人がいないからって。  あたしは鏡に映るアンナのドヤ顔に向かって「それは言い過ぎよ、アンナ」と嗜める。  アンナは鏡越しにぺろっと舌を出してみせた。  「昨夜、初めて会ったけど、良い人そうだったよ」  あたしはオズワルド王子の、如何にも人の好さそうな笑顔を思い出しながら言う。  少なくとも、あのエセルバルド王太子よりは、ずっとずっと良い人そう。  「それは宜しゅうございました。  まあ、ちょっと頼りなさそうな印象がありましたけど、気の強いエレオノーレ様にはああいう従順そうなご夫君が良いんでしょうね」  アンナはさらっと失礼なことを言う。
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