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王様の謁見が始まったようで、廊下をざわざわと歩く賑やかな声がひっきりなしに聞こえる。
昨夜の舞踏会、たくさんのお姫様方が来てたもんなあ…
あれ一人ひとりに全部会うって、結構大変だよね。
序列とかも煩そうだし。
もし、フェルディナンド兄様が生きていらしたら。
我が国にもあんなに大勢のお姫様が来て、花嫁選びをしたのかな。
そうしたらお父様も、もう少しお元気で溌溂としておられたかしら。
「…少し、お食事をなさいますか」
アンナが気づかわしげに声をかけてくる。
「こんなに締め付けられて、何も食べられるわけないじゃない」
あたしは顔を上げ、強いて呆れたような声で言う。
鏡に映るあたしの金色の髪は、アンナとヘアメイク専門の侍女によって美しく高々と結い上げられていた。
宝石を散りばめたティアラを姿よく飾り付けて、アンナはほーっとため息をつく。
「昨夜より勝って、お美しゅうございますわ。
じゃあ、お飲み物だけでも召し上がってくださいまし」
侍女が綺麗な装飾ガラスの水差しに入った、甘い飲み物を持ってくる。
あたしは少しだけ口をつける。
アンナは先ほどに続いてまだ文句を言いたいようだ。
あたしのドレスを形よく見えるようにあちらを引っ張りこちらをたくし上げて整えながら、小さな声でぶつぶつ言っている。
「カロラング・アンティオ王国の王太女様ともあろうお方が、いくら第二王子の婚約者とは言え、一番最後に謁見だなんて…
こんなに軽んじられるなんてことがあっていいものかしら」
「まあ、いろいろと事情があるんでしょ。
仕方ないじゃないの、オズワルド様との縁談で我が国はこの国の強大な軍事力の恩恵に与ることができるのは確かなんだから」
あたしも小さな声で諭す。
「それは…解っておりますが。
私はあの人見知りのエレオノーレ様が、どれほどの勇気を奮い起こしてここに座っていらっしゃるのかを存じておりますので、ついいろいろと愚痴りたくなってしまうのでございます」
アンナは悔しそうに零す。
あたしは薄く笑って、「ありがとうね」とアンナの手をポンポンと叩いた。
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