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「わぁってるよ、だから隠れてたんじゃないか」
おれは手を振りほどこうともがきながらブツブツ呟く。
「無駄ですよ、あなたが今までに一度でも私の手を外せたことがありますか」
前を見据えたままオーウェンが偉そうに言う。
…っちくしょう…
俺は奥歯を噛みしめる。
小姓たちが畏まって両側に開けたドアを通って部屋に入り、俺の腕を乱暴に放すと、長身のオーウェンは俺を見下ろした。
「腹を括ってください。
どう足掻いたって、逃げることはできないのですよ。
あなたのお立場では、いつかこの日が来るのは、ご誕生なさった時から決まっていたことです」
静かな声に混ざる、ほんの少しの同情。
俺は顔を背けた。
オーウェンは声を張る。
「さあ、急いで王太子殿下のお支度を!」
大勢の侍女や小姓たちに、あっという間に上から下まで着替えさせられ、眩い装飾品をジャラジャラつけられ、鬘を被らせられて粉を振られ、化粧を施され、腰に重い剣を下げさせられた俺は、「…よし」という満足げなオーウェンの言葉と共に部屋を出て大広間に向かう。
大広間には、もう大勢の人々が集っているらしく、ざわめきが聴こえる。
めんどくさ…
俺は内心ため息をつく。
オーウェンは侍従に耳打ちする。
侍従は畏まって、父王の許へ行き、何事か囁いた。
父王が頷くのを確認して、侍従は少し下がって大きく良く響く声で俺の到着を告げた。
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