第1章 花嫁選び・第二日目

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 うぬぅ…    結構、やるじゃないの、あの王子。  おとなしそうな顔して、このあたしに動きを悟らせないなんて。  オズワルド王子と入れ違いにアンナが入ってきた。  いつの間にか、医師とともに外へ出ていたらしい。  「ご気分はどうですか?」  アンナは横になったあたしの身体の上に、羽根布団をかけながら訊く。  「うん…頭痛はあるけど、気持ち悪さはだいぶん緩和されたみたい」  あたしが答えると、アンナはホッとしたように少し笑った。  「オズワルド様との面会も、王様への謁見も済みましたし、エレオノーレ様のお加減が良くなられたら、明日にも帰国しましょうと、侍従のフランツと話しました。  あんな王太子のいるこの国に長く滞在する意味がありませんわ。  それに…」  アンナは少し言いよどみ、あたしは訝しく思って「何?どうかしたの?」と訊いた。  「いえ、あの…お加減のお悪い姫様にお聞かせするのは申し訳ないのですが…  南の国境付近がちょっと騒がしいというような報告がありまして。  フェルディナンド様の亡き後、あちこちの地方も不安が広がっているようで…」  あたしは「ああ…そういうこともあるでしょうね」と頷いて、目をつむった。  やはり、継嗣が女ではダメなのかしら。  あたしの心は重く沈んでゆく。  「とにかく姫様は、ゆっくり休んでくださいね。  何かありましたらお呼びくださいませ」  水差しとコップの載ったお盆を、ベッドサイドテーブルに置くと、アンナはそっと出て行った。  明日、帰国する…  エセルバルドに会える機会はあるかなあ。  皆の前で挨拶をするとかじゃなくて、今日みたいに部屋で。  あたしは大きくため息をついてふかふかのベッドの中で寝返りを打つ。    さっき、オズワルド様のキスを咄嗟に避けてしまったのは。  あの時、エセルバルドの皮肉っぽい笑顔が頭に浮かんで、その途端にオズワルド様にキスされるのは嫌だ!って思ったんだ…  なぜ?
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