第1章 花嫁選び・第三日目

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 ザックス地方から矢継ぎ早に来る報告と地図を照らし合わせて、今の戦況を知る。  なんだろう…  あたしは違和感を持った。  なんだかこちらの作戦が後手後手に回っているような感じがする。  秘密裏に行軍しているはずなのに、少数の兵ではあるけど先回りされている。  作戦そのものに疎漏はない。  将軍たちは状況を読んで、最善の策を立ててくれていると思う。    だけど、じりじりと押されている感は否めない。  戦況は、はっきり言って我が国の方が悪い。  あたしはエセルバルドからもらった地図を出して、更にメガロヴルグの参謀たちが考えた作戦を将軍たちに伝えた。  微に入り細を穿った作戦に、皆驚きを隠せない。  しかしそれよりも、一番彼らを驚かせたのは、あたしがそれらをすべて自分の言葉で伝え、更に自分の考えを述べたことだった。  大将軍は「なんと…姫様、あなたはこれが理解できると…?」と驚愕して言った。  「もちろんよ。わたくしを誰だと思っていらっしゃるの?このカロラング・アンティオ王国の次期女王よ?」  と、殊更に可愛らしく見えるように上目遣いに大将軍を見て微笑む。  その場にいるものが皆、怯んだようにあたしを見た。  へっざまあみろ。  あたしは心の中で舌を出す。  あたしをただの引っ込み思案の、何もできないおバカな王女だと思ってたんでしょ。  まあ、無理もないけどね。  そう思われるように仕向けてきたのは、他ならぬあたし自身なんだから。  賢く聡明なお母様、利発で明晰なお兄様が早逝されたのは、王宮内の誰かの(ねた)(そね)みによるものだと、あたしは信じている。  あたしはそんな風にはならない、そのために仮面が必要だった。  だけどあたしがお母様亡きあと、そう考えられるようになったのはとある男のお陰だ。  その男は傭兵の経験もあるという剣士で、とにかく態度が横柄で口が悪かった。  それであたしも王女のくせしてこんなになっちゃったってわけ。    会議が終わって各地に伝令と斥候が散り、あたしたちもザックス地方に移動しながら順次作戦を立てて兵を送り込むことにした。    当初はあたしやオズワルド王子、将軍たちは戦地にまではいかない予定だったが、そうも言ってられない戦況に、あたしは焦りを隠せなかった。
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