第2章 ザックスの戦闘・前

2/14
131人が本棚に入れています
本棚に追加
/100ページ
 1.メガロヴルグ王国王太子・エセルバルド  どうなってやがんだこいつは!  俺は報告書を力任せにテーブルに叩きつけた。  作戦という作戦がすべて裏目に出ている。  カロラング・アンティオ王国の軍は悉く敗退し、前線はじりじりと後退の一途を辿っている。  エレオノーレは、どうなってる。  オズワルドと共に、最前線にいるという連絡が来たきり、音沙汰がない。  エレオノーレ!  俺の焦燥感は募る。  「エセル様、モノに当たったって仕方ないでしょう」  オーウェンはあくまでも冷静に言う。  知的なブルーグレイの瞳を瞬かせる。  「オズワルド様とエレオノーレ様は、向こうの大将軍もご一緒に居られるそうですから、大丈夫でございますよ。  オズワルド様も、大将としての役目を懸命に果たしていらっしゃる」  俺はオーウェンの落ち着き払った態度にイライラしながらも、椅子にどっかり座って何とか落ち着こうと試みる。  「だけどこれ、非常にまずい展開だね。  完全にこちらの作戦が敵方に漏れている」  アルバートが地図と報告書を照合しながらひとりごちる。  「そうだ。  誰なんだ、情報漏洩しているのは!」  俺は椅子から身を起こし、オズワルドからの書簡を広げた。  この王宮から馬車を飛ばして国境に着き、さらに南下してザックス地方に到着してから1週間。  かなり早い段階で、オズワルドは軍内の違和感と裏切り者の存在を示唆していた。  俺は正直なところ、意外だった。  何の経験もないオズワルドに、戦争の勘みたいなものがあったのかと。    誰かに入れ知恵されているのかとも思ったが、初見の他国の王子に、そんなことを進言する奴もいないだろうしな…  
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!