第1章 花嫁選び・第一日目

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 「こうして様々な国、地域の人々が集う稀有な機会を楽しんで過ごしてくれることを願う」  王がそう結んで、また玉座に座った。    皆から盛大な拍手が起きる。  高い場所にいると壁や天井に反響して耳を聾するそのクラップ音に、俺と弟王子は思わず目を合わせて苦笑した。  舞踏会が始まり、広間にいる人たちは相手を見つけては楽しそうに踊っている。  俺は父王の退出した玉座のあるバルコニーから大広間を眺めた。  『花嫁選び』とか言ったって、どうせもう相手はほぼ決まっているんだよ。  国力の均衡とか、政治的な思惑や策略とかでさ。  まあせいぜい2人か3人くらいから選べってところだろう。    しかもそんな王女たちは、花嫁候補として既に何度も会ったことのある姫ばかり。  着飾って自分を美しく見せることにしか興味はなくて頭は空っぽでぜんっぜん面白みのない、何もできないくせに偉そうに威張ってるブスばっかりだ。    何だこの、バカげた予定調和の出来レース。    こんな大掛かりな、俺を見世物にするだけのパーティやる意味ねえんだよ。  踊りながらバルコニーの真下まで来てはお辞儀をする人々に、俺は人好きのする笑みを顔に貼り付け、尊大でかつ穏やかな仕草で手を振る。  心の中でお前らをバカにして罵倒してることなんて、思いもよらないだろうな。  「エセル様は下に降りて踊られないのですか」  いつの間にか背後に来ていたオーウェンがそっと耳打ちする。  俺は振り返って「お前、それ本気で言ってる?」と呆れて言う。  誰と踊ろうと踊るまいと、結果に変わりはないのにさ。  「もちろん本気でございますよ、ほら、オズワルド様も」  事情は知り尽くしているくせに、しれっとした顔でオーウェンは階下を指さす。  広間を見下ろすと、他の人たちが退いた空間で、オズワルドが一人の令嬢の前で踊りに誘うお辞儀をしているのが見えた。
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