エピローグ

1/1
1747人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

エピローグ

 東京で暮らした数年間、俺には大切な恋人がいた。  彼とは大学の学生寮で出会い、そこから就職して三年目まで共に暮らした。  瑞樹……  もう口に出して名を呼ぶことは二度と出来ないが、元気でやっているか。  あんな風に別れ、あの部屋に君をひとりで置いて行って……ごめん。  あれからどうしている?  ちゃんと水を飲んで生きているか。  もう会う資格もない俺だが、いつも花のような香りを漂わせていた君を、心から大切に想っていた。旅館を継げという親の望む道を捨てられず、君を中途半端に捨ててしまったけれども…… 「パパぁ……」 「どうした? あぁ、葉っぱが四つだね。これは四つ葉というんだよ」 「……す、き!」  小さな息子の、たどたどしいお喋りが愛おしい。  もう俺は、この生き方を後悔していない。    瑞樹も見つけたか。  誰か、幸せになれる相手を。 ***  宿泊者名簿の中に、瑞樹の名前を見つけた時は心底驚いた。  すぐに瑞樹は小さな男の子と仲良さそうに手を繋いで、突然俺の目の前に現れた。その横には瑞樹を愛おしそうに見つめる彼氏の姿があって、ほっとしたのと同時に少し妬いた。全く俺は自分勝手だよな。  瑞樹は俺に「元気だったか。僕は元気にやっているよ」とだけ言ってくれた。相変わらず瑞樹の身体からは花のようないい匂いが漂っていたが、もうこの香りは、俺のものではない。  チェックインのサインをする瑞樹の左薬指に、真新しい銀色の指輪がキラリと輝いていた。そして右手には道端で男の子が作ったのか、シロツメクサで出来た可愛い指輪をしていた。  そうか瑞樹……幸せになったのだな。  その手元を見て、ようやく素直に受け入れられた。 「あなた、フロントを代わりましょうか」 「あぁこちらのお客様の後に、代わってくれ」  今の俺には、可愛い息子と若女将をしてくれる大事な妻がいる。  瑞樹は瑞樹の幸せを……  俺は俺の幸せを掴んだということか。 「こちらがキーです。ごゆっくりとお過ごしください」  事務的にそう告げると、瑞樹は昔のように優しく微笑んでくれた。 「……ありがとう。いい思い出を作っていくよ」  瑞樹たちが部屋に向かった後、妻が首を傾げた。 「どうした?」 「あのね、今の男性をどこかで見たような気がして」 「そっ、そうなのか」 ドキッとした。妻は瑞樹とのことは全く知らないはずなのに。 「あぁ、思い出したわ」 「どこで会ったのか」 「結婚式で見たのよ。そうだわ、柱の陰から私たちのことを見上げていたわ」 「えっ、どんな風に?」 「そうね、とても愛おしそうに……大切なものを見送るように……」 「大切なもの?」  もしあの場に瑞樹が来ていたのなら、てっきり恨みがましい目で睨んでいたと思った自分が恥ずかしい。瑞樹がそんな人間でないのを、知っているクセに。 「さっきの方達って、もしかしてご家族かな。『幸せ』が滲み出ていたわよね。いろんな愛のカタチがあっていいと思うの。私は寛大よ!」  妻は楽しそうに、ウインクした。                       『幸せな復讐』了   あとがき…… 最後まで読んで下さってありがとうございます。 心地良い読了感を目指して書いた短編です。 フォロワーさまに作っていただいた冒頭部分の英訳を絵本風に仕上げてみました。 1d1cb2a8-714c-4368-96b3-b7c42a3ec09c さてこのお話ですが…… 瑞樹が宗吾と結ばれるまでの日々と、幸せな復讐を終えた彼らの日々をじっくり『幸せな存在』という作品で描いています。 現在なんと1500話以上連載しています! このまま続けて読んでいただけると、更に瑞樹や宗吾さんの心の内側が深まると思います。 こちらでお待ちしております♡ スター特典も沢山ご用意しています。 『幸せな存在』https://estar.jp/novels/25503412 表紙絵はおもち様です。素晴らしいの一言♡ ↓   f50226e4-1ae8-4b5e-baeb-2662f827ff9c **** 追加情報 2021年2月『幸せな復讐』を収録した同人誌を作りました。 短編集『幸せな贈りもの』BOOTHにて販売中していましたが、2022年9月・増刷分も完売してしまいました。 http://shiawaseyasan.booth.pm/items/2696215 文庫本  表紙カバー・帯・両面ポストカード、ペーパー付。 WEB未公開、中学生になった芽生の話も収録しています。更に書き下ろし2話を、PDFファイルでプレゼントしていました。 同人誌は完売していますが、BOOTHには芽生の話が読める無料ペーパーがありますので、よかったらどうぞ。 また再・再販は考えていないのですが、もしも……20冊以上のリクエストが集まれば実行したいと思っていますので「入荷お知らせメール」にご登録いただけると幸いです。   
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!