航海三日目、夜

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航海三日目、夜

シローは結局晩くまで甲板にいた。 月は静かに欠けていき、まるで今の自分のようだな、などとひとりごちながら。 静かな海は心を落ち着かせてくれた。 (甘いな・・・) あの船に『シェル』が載っている時点で、アレクが取るだろう行動は予測できたのに、海賊も、アレクの言った通り止めるべきではなかったのかもしれない。 シローは戦いにおける自分の甘さを悔やんだ。 (だけど俺は・・・)頭では理解しているのだ。アレクの判断が正しいと。多少の後悔と、反省、そしてこれからの自分の行動が、彼の邪魔にはならないだろうか、そんなことを思う。 (いずれ、手を染めなくてはならない・・)この世界は日本とは違うのだから、いずれそういう時も来るのだろう。まして、これから向かう国では何が起こるかわからない。 「シロー、長い間海風にあたると風邪をひく。」アレクが船内から出てきた。 「・・・ああ・・」今、同じ部屋へ戻るのは気まずいが、きっとアレクは気にしていないだろうと思い、船内入り口へ向かう。 そこで、ばっさ、ばっさ、という音が聞こえた。 「?」 ぼとり! 投げ捨てられたという表現が正しい、正方形のひしゃげた箱が、甲板に落ちていた。 「来たか。」アレクはそれを拾うと、上空の・・・ふくろうのような夜行性の鳥ードリーというらしいーに片手で合図をした。 鳥はしばらく空中を旋回していたが、ふいに元来た方角へ羽ばたいていった。 「・・・?何か頼んだのか?」シローは室内に入り、廊下を歩きながらアレクに聞く。 「ああ、これは・・」そう言って、眩しいほどの笑みで返される。 「・・・いや、いい。言わなくて。」シローはその笑みに何か危険を感じ、遮った。 「・・・そうだな、楽しみは後の方がいい。」アレクはそう言うと包みをベットのサイドテーブルに置き、夕食の相談に入った。 結局、夜にもグランドカラーの揚げ物なども1品として入れることになったが、調理法を変えると違った味になり、シローはおおいに楽しんだ。 風呂を使い寝室へ行くと、アレクが片付けの間にあの箱を開けるように言っていたのを思い出した。 『シローにだ。指輪を無くした代わりに、ロイドが送ってくれた。』アレクはそう言うと眩しいほどの笑みで先に行き、使ってみろと言われた。 タオルでざっと髪を拭き、タンクトップに短パンを穿いた後、ベットの横のサイドテーブルの白いひしゃげた箱ー中身は大丈夫だろうかーを開ける。 (・・・?いやに丁寧な包装だな。)中に薄い紙があり、それを開く。 「・・・・・・」目が点になった。 中には、下着が入っていた。 それも、女性用としか見えないレースの。 メモが入っていたので手に取ると、ロイドからのメッセージだった。 『いとしのシロー君へ アレクシスからの要望で、 スチルを縫い付けてある。 強度はバッチリだから 安心して使用してくれ』 ぐしゃ、と手が紙を握りつぶした。 (強度って何だ!) どきどきしながら下着を広げる。 「・・?」それはシローが想像していたものとは少し違った。 メッシュネット生地に美しい花々の刺繍が施してあるのはいい。だが、覆う生地は性器の部分のみ。言い換えればこれでは、陰茎しかおさめられない。しかも、メッシュなので隠すこともできない。その花の中心にロイドの言うスチルがはめ込まれている。ここまで薄く削ったのは職人技としか言いようが無い。 しかもその布からはまるでTバックのように紐でサイドで縛るようになっていて、その縛る部分と、センターの丁度陰茎の下あたりから、スチルを使ったアクセサリがぶら下がっている。 そして何より。 「これ、後ろ何にもないじゃないか・・!」変態は、確かに変態であった、と確信した瞬間である。 陰茎のしたの袋まではかろうじてレースがあるが、その先はぽっかり穴が空いていた。 それを見て、何に利用するかわかったシローはどきりとした。 (・・・つまり、挿入しやすいようにってか。)これは、ショーツをつけたまま致す代物なのだ。 そして、箱にはまだ何か入っていた。 手に取ると、うっすら透ける素材で出来ていて、下着と同じ白を基調とし、薄いピンクの刺繍がほどこしてある。 「何だこれ?」その下に、下着の正しい着用方法の紙が入っていた。 「・・・」どうやら、この布はパレオとして下着の上に腰で巻くようだった。 「・・・ロイドさんも止めないのか・・・」これを嬉々として選んだ姿が思い浮かぶ。 さて、ここで問題。 (俺はこれを着用しなければならないのか・・?)おそらく、1点ものだろう、スチルを使った手間と時間と金もかかっていそうなもの。けれど、それを自分が穿くのは抵抗がある。 「却下。」シローは下着を箱に戻した。 「何故?」真後ろからアレクの声がする。 (背後に立たれた!)ちなみに、アレクはシローがどんな反応をするのか見ていたかったため、気配を消しただけである。 「何故って・・・いきなり後ろに立つなよ。攻撃しそうになる。・・・これ、布が全然無いじゃないか。これを毎日穿くわけにはいかないだろ。」シローがそう言うと、アレクはそれを覗き込んだ。 「ああ。・・・さすがに良い出来だ。これは、クロッカスでも有名な『エル・ランタン』の取寄せでな。シローには白が似合うと思ったのだが、良いようだ。」 「いやいやいや、だから、これだと日常生活には・・・」 「ああ、そのことなら心配はいらぬ。サイドのスチルは取り外しができるようになっていてな、普段はそれを身に着ければいい。そもそも、シローが私以外の者にあのような格好をさせるのが悪い。」 「は!?」あのような、と言われ思い出したのは例の黒下着事件のこと。 「私が送る前に、あのような格好をされたのは実に不愉快だった。故に、あれ以上のものを作らせた。すばらしい出来とは思わないか?」アレクはこれ以上ない笑みで上機嫌である。 「・・・いやまぁ、すばらしいっつーか、綺麗は綺麗だが。」むしろお前の頭が心配だ、とは言わずにおいた。 「これって、女性用じゃないのか?」 「ああ。本来は、スティンとセットらしいのだが、シローには必要ないだろう?」スティンというのはブラのことらしい。 「だけど・・」シローが言うまでに、アレクがシローの耳に吹き込んだ。 「シローは私の視線だけで乳首が色づくのだから。」 「っ」シローの体温が上がる。そして、航海初日の自分の消したいが消せない所業を思い出す。 「想像しなかったか?これを穿いて、私に貫かれることを・・・」アレクがそのままシローの耳を噛む。シローはぴくり、と身体を震わす。 「シローは知らぬだろうが、下着を送るというのは夫婦間では当たり前のことだ。そう考えずに穿いてみるといい。スチルがシローの『シェル』を安定させてくれるだろう。」 「・・・・どうしても?」 「どうしても。」そう言って、アレクは目の前の椅子に腰掛けてしまう。どうやら、シローが穿くのを見物するようだ。 「・・・わかったから、部屋は出てろ。呼ぶから。」 (・・・俺は本当に馬鹿だ。)シローはため息をついて、アレクを追い出した。おそらく、これを着るまでアレクは諦めないだろう。 何せ、取り寄せてこんな大海原まで運ばせるくらいだ。その執念はすさまじい。 シローは何度目かになるため息と共に、取扱い説明書を取り出した。
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