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-1- 箱庭の世界
庭園を人工の光が明るく照らした。
淡いコーラルの色をしたレンガは効率よく光を反射すると共に、訪れる者をあたたかな気持ちにさせた。
規則正しく植えられた樹木が等間隔に並んでいる。花壇には色とりどりの花が几帳面に植えられており、それらが安らぎを演出している。
ここはおよそそのように設計された空間であった。
その空間をひとりの少年が歩いていた。
少年は十代の後半で、黒い髪に青い瞳を持つ。すっとした目鼻立ちは真面目そうで清涼な雰囲気があったが、固く結ばれた口元は笑顔をめったに見せないような、やや冷たい印象も受けた。
髪の色と揃いの魔導服は、彼が闇魔導士であることを示唆していたが、それはこの華やかな場所で多少浮いていた。しかし人と会う約束があった。
花壇のわきを抜けてひときわ開けた広場へと靴音を響かせた。そこには巨大で頑丈なアクリルガラスがそびえ立つ。
ふと少年の足元に大きな何かが影を落とす。広場にいたほかの人間もわずかに歓声を上げた。
(エイ――)
見上げると、体長十m近いオニイトマキエイが回遊していた。ここは大水槽の前なのだ。
ただし水族館ではない。ことここにあっては「どちらが箱庭であるか」が逆転している。つまり閉じ込められているのは人間たちで、外の海が本物なのである。
少年が住む“Utakata-1”は、この海洋にいくつか存在する閉鎖都市のひとつであった。
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