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ネリは再び闇の地を踏んだ。
足の裏に感じる柔らかい感触、土と潮の香り。
遠くに聞こえる潮騒。
けれどもそれらは四日前と少し違う。
自然の世界に、同じ“時”というものは二度として無いのだということを知った。
闇の世界をただ駆けてゆく。
息が上がる。
吹き付ける砂塵と、冷たい空気が体力を奪う。
“影渡り”の空間座標は同じ闇魔導士の手によって、直に特定されてしまうだろう。だからここからは自分の足で、できる限り遠くへ逃げる必要があった。
(でも――どこへ)
ネリの心に小さな絶望が去来する。考えないようにしていたそれは次第に大きくなり、彼の心を蝕んでいった。そんなことを考えてしまったら、こんな大それたことはできなかった。
トユンが真実を教えたせいで――
妖精が無垢な瞳を向けるせいで――
自分は安全な箱庭を失ってしまった。けれどもすぐに気付く。
(違う)
「違う」
今度は声に出してみた。
トユンのせいでも、妖精のせいでもない。
ただ全て、自分が世界の矛盾を許せなかったのだ。
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