それは儚く消えゆくモノ

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……これは、もしもの話だ。  もしこの世界に自由があったのなら。  俺は何も失わなかっただろう。  もしこの世界に自由があったのなら。  私はずっと紙をめくりつづけただろう。   そうしたら俺は、彼女と。  そうしたら私は、彼と。  違った形で、出会えたのだろうか。  雨に煙る深い夜。  男は驚いたように立ち止まり、女は口につけていたおちょこを離した。 「凛子さん……」 「秋山殿……」  雨のカーテンは世界から二人を隠していく。
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