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第五話 走って走って肝冷やせ
その日は朝から猛烈に冷え込んでいた。もうすぐ春だっていうのにこんなに寒いなんて、異常気象じゃないだろうか。
寒がりの吉見竹豊はいつものように学ランの上にドテラを羽織って、どこから持ち出したのか教室の机をコタツに変えてミカンを食べていた。なんて可愛いんだ!
僕はさりげなく竹豊のコタツに入ろうとした。その時! 出たよっ! アマゾネス! 安部中山聖が!!
「竹豊クン。アタシ、冷え性だから一緒に入ってもいいかしら?」
なんてこと言いやがるっ! お前は冷え性じゃなくて、水虫だろっ! 移るから入れるものかよっ! さあ、あっさり断っちゃいなYo!
「いいよ。入りなよ」
何てこったい! ジーザス! 優しい竹豊はいとも容易く聖の入国を許可しちゃったよ。そして、また聖はニヤリと僕に向かって不敵な笑みを浮かべた。ギイィッ! 悔しいっ!
僕がひとしきり悔しがっている間に、深川洋一郎之介と柳沢基次がちゃっかりコタツに入っちゃったので僕のスペースが無くなった。何だってこんなことに……。僕は悔しくて悔しくて、走って教室を飛び出した。すると誰かにぶつかった。
この寒い日にランニングシャツ。一人しかいない。ジョギング先生だ。
「どうしたんだい? ヒヨッコ。泣きそうな顔して……」
僕は妙案を思いつき、お得意の上目遣いと涙目でジョギング先生に訴えた。
「皆がコタツに入ってて……僕だけ入れないんです……」
僕のメチャクチャ可愛いウルウルビームは何て威力があるんだろう。ジョギング先生はまたしても、つられて泣いた。そして勢いよく扉を開けて教室に入った。さあ、奴らのコタツを壊しちゃってYo! ジョギング先生!
「お前達! そんなに寒がってどうする! お前たちの根性を叩きなおしてやる! いいか! 良く聞くが良い。今日の夜、肝試し大会をするっ! 寒い日こそ肝を冷やして強くなるんだっ!」
ちょ……ちょっとっ! 何言ってんの!? アイツ! 肝試しとかじゃなくて……コタツを……。コタツを……。
「何言ってんの!? ぜってーやだよっ!」
寒がりの竹豊が猛反発した。ごめんよ……竹豊……。
「問答無用だっ! じゃないと頭を寒くしちゃうゾ!」
皆、一斉にシーンとなった。もはや、その一言は脅迫だと思う。
「横暴だっ! ふざけんなよっ!」
やっぱりクラスのリーダー竹豊だけは反発してくれた。でも、僕は内心冷や冷やした。だってウッカリ竹豊が角刈にでもなったら最悪だ。
「でもさ、何か楽しそうじゃない?」
脳天気の洋一郎之介がニコニコしながら言った。本当に馬鹿だなあ。こいつ。
「まあ……確かにな……」
って竹豊! 何、洋一郎之介に同調してんの? 馬鹿って言っちゃったじゃん!
そんなこんなで僕達は肝試し大会をすることになった。お化け役に選ばれたのはくじ運の悪い徳本鼻三郎と基次だった。見るからにツイてなさそうだもんな。特に鼻三郎なんかは。
「ではでは。今日の0時。外人墓地に大集合だっ!」
何でよりによって外人墓地なんだよ。僕達はジョギング先生の思考回路について行けない……。でも、洋一郎之介だけは「やっぱ肝試しは外人墓地がスリラーだよね」とか訳のわかんないこと言うから困る。
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