運命的なであい?

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で、だ。 その悪魔なヒーローは俺の前でノートを広げている。 仁王立ちのままで。 先ほどより圧迫感が増したような気がする、いや、まだ視線を合わせてこないだけマシか。 「で、活躍の場を広げたいって言ってるけど、具体的にはどんなことをしたいんだよ」 「犯罪を防ぎたい。手始めに銀行強盗とか」 「手始めがハイウッド級」 「じゃあ誘拐」 「じゃあ、言うなや」 ホントに世のため人のためを考えているのか方向が間違っている気がする。 「現実味があるやつ限定で」 「例えば何よ」 あ、ちょっとむくれたな 「万引き犯を捕まえる」 「やった」 「痴漢を捕まえる」 「やった、握りつぶした」 「何を!?・・・道案内をする」 「それは親切」 「落とし物は交番に」 「ポリ公に渡すくらいなら私がもらう」 おいおい、渡せよそこは 「そのノートには何が書かれているんだ?」 「今までやった正義よ」 「・・・そのノートに書かれている中で一番過激なのは?」 「不良グループの解体かな」 「こわ」 「全然よ。不良グループって言っても高校生グループだし、バックにヤーさんがいるわけでもなかったし」 結構過激なことをやっているではないか 「もう十分じゃないか、これ以上なことしたら愉快犯として自分が犯罪者になっちまうぞ?」 手をしっしっと振り、新島を俺の前からどかす。 「私の正義を愉快犯と間違える愚か者は放っておくのが一番。流石にそんな人に付き合ってあげる時間はないし」 俺の隣に腰をおろした新島を横目で見る。 そしてそのまま側にあったリモコンでテレビをつけた。 そういう事を言っているのではないのだがなぁ・・・。 先ほどまで見てたワイドショーはとっくに終わってニュース番組に切り替わっていた。 『続いてのニュースです。昨日アメリカニューヨーク州の銀行にて強盗事件が発生しました』 「きたーーーー!!強盗事件!しかも銀行!狙っていたかもようなグットタイミングじゃない!」 「まてまてまてアメリカだぞ!?」 『犯人グループは銃を複数所持しておりーーーー』 「漫画じゃん!?これ解決したら一気に有名人じゃん!やるしかないじゃん」 「おちつけって今日本にいるお前がどうしたら解決させるんだよ」 「もちろん今すぐ現地に飛んで」 『ーーーー犯人グループは全員逮捕しました。』 「・・・・・・・・・え」 その時の新島の顔は忘れない。 これから辛いことがあった時は、この時の新島の表情を思い出すようにしよう。 現実はそう上手くはいかないってことさ。 それからの新島は外見に沿った表情になった。 つまりは、だんまりだ。 見た目とのギャップが激しいんだよなこの子は、会って数時間の俺が言うのもなんだけど。 よほどショックだったのだろうが、こちらとしてはそんなタイミングで事件が起こったらまずドッキリを疑ってしまうし、そろそろ本気で帰りたい。 「あのー・・・新島サン?落ち込んでる所申し訳ないんですが、時間もあれだし、そろそろお暇させていただこうかなーって、あのね、服をね?」 返していただきたくですね? 「あ、あぁ服ね。服、もう乾いていると思うわ、ごめんなさい忙しいだろうに長い時間付き合わせてしまって、あと色々とアドバイスもありがとう。」 口調が変わっている。高嶺の花再びである。 あと、俺の言葉をお前は会話の中で全否定してたぞ?覚えているか? さぞ残念だろうが、俺は明日に向けての体力を回復させたいのだ。あと女子高生の体操服を着たという現実を一刻もはやく忘れさせてくれ。 新島が腰をあげた。 その瞬間である。 「来ないでっ嫌っ!」 どこからか、てか隣の部屋から聞こえた女性の声。 そして、微かに・・・どころではない激しくもみ合う音と物が落ちる音がとなりの薄い壁から聞こえた。 俺と新島は走った。新島にいたってはクラウチングスタートで。 壁を突き破る勢いで耳をつけ隣の様子を伺う2人。 振動?大丈夫大丈夫こっちよりもあっちが凄いから。 「顔、そのニヤけをやめなさい」 「無理無理無理、表情筋が本能のままに」 「なお悪いわ」 隣の部屋の様子を伺う為にピッタリと身を寄せ合う人影が二つ。 もみ合う音は聞こえるのだが、やはり壁越しのせいかクリアの言葉は聞こえない。 「なんて言ってるんだろう」 「まぁ、さっき聞こえた言葉から楽しい話題ではないと思うけどね」 「テレビだったり?」 「お隣さんはいつもこんな大音量でテレビを見るのか?」 チラッとベランダの方へ視線をズラすと夕日の綺麗な茜色が部屋を刺していた。 嗚呼、今日も一日が終わる。 と、ここで視線を感じる。 目線を戻して頭一つ下で自分と同じように壁に耳を付けている新島の表情を伺うと、満面の笑顔が夕日の中でもよく分かった。 「流石、お兄さん、私と同じ事を考えていたようね。薄々感じてはいたけれどやっぱり私たちは気が合うわ。ヒーローの素質ありよ。私とコンビを組みましょう」 は? 「え?なに?どゆこと?」 「謙遜なんてしなくていいわ。それとも私に美味しい所をくれるのかしら?だったらお言葉にもらっちゃいましょうかね」 語尾にルンッ♪とでも付きそうな勢いな新島が壁から顔を離した。 そしてルンッ♪な効果音を引き連れたままベランダへと向かう、カラカラと窓を開け風が部屋の中に侵入してくる。 その綺麗な髪をなびかせる新島の姿を見て、俺は血の気を引いた。 「まて、まてまてまて変なことを考えるな思いつくな、ここは素直に警察に連絡するのが得策だ」 「はぁ!?警察に手柄を渡せっての?冗談じゃない。目の前にこんな事件があるなんてみすみす逃すなんてできないわ、それに」 前から壊してみたかったし。 はい、ここで思い出して欲しい。アパートのベランダというのは一見は自室の一部のように見えるが、実はお隣の気配を一番感じる場所でもある。どっかの漫画やドラマで見た事はないだろうか、ベランダ越しに主人公と、となりの部屋に住む相手とお酒とか飲んじゃいながら仲睦まじく交流を深めるシーンを、このシーンで重要なのは相手の顔が見えないことだ。相手の顔が見えないけれど声とたまに柵から見える相手の手や腕に登場人物がドギマギするのが面白いのである。 そう、相手の顔が見えないことが大事なのである。ドラマの盛り上がりのためにも防犯のためにも・・・。 しかし、完全ではない。 視線を横にずらして欲しい、そこで目に飛び込んでくるのは「非常時にはここを破り隣へ避難してください」の文字。 「非常時サイコー!!」 いえーい。 なにやらサイコパスに間違われそうな言葉とやっていることは実にサイコパスに近いことを新島はした。 ゲコンと、妙にリアルな音を立てながらその隣の部屋を取り仕切る薄い壁を蹴破った。 「ヒーローはいりませんか!?」 「どこの押し売りだよ」 閑話休題 「ほんっとうに申し訳ありませんでした」 これ、誰が言ったと思う? 俺だよ。 あれから見事に隣の部屋へ不法侵入をした俺たちは家主である女性と、その女性を襲おうとしている男性を発見。 いや、この時は想定していたものだけど焦ったね、目の前にこんなことが起こっているなんてね。身体が動いちゃうってもんよ、助けなきゃってさ。 一歩踏み出して部屋の中に入ろうとしてもんだけども、ここで今の季節を考えてみてほしい。今は真夏でもなんでもない寒い冬である。声は聞こえるけども窓は、ベランダの窓はしっかりと閉められている。 網戸だけだというミラクルもなしだし、当然ながら内鍵だ。 ここで登場、行動できる子新島さん。 ベニヤ板を蹴破ったその素晴らしい脚力で豪快に今度は窓ガラスを蹴り割っていただいてくれちゃったんだこの野郎どうしてくれんだ。 男はいきなり現れた俺たちに驚いたのか気がそがれたのか両方の理由か脱兎のごとく部屋から走り去っていった。もちろん玄関から。 え?新島は追いかけなかったのかって? 窓ガラスを蹴破ってみろ、その足がどんなことになるか10文字以内で答えよ。 「ほんと痛いビックリ」 字足らず。 結果、右足を包帯でグルグル巻きにされた新島が出来上がった。 「お前ってバカなのな」 「これでも成績いいんだから、定期テスト毎回学年10位には入る秀才だから」 「残念なバカだな」 「蹴るぞ」 「高度なギャグをかますんじゃない」 あ、あの・・・。 でバカとのアホなやり取りを止めてくれた声の主、つーか、この部屋の主、つーか今回の一番の被害者が登場。 「すみません、何がっていうか色々ほんとにすみません。あの、窓のガラスとか大丈夫ですか?怪我していませんか?」 「怪我はしてないわ、由季ちゃんも見た目ほど怪我が深くなくて良かった。あ、でもちゃんと病院に行ってね。治療費は出すから」 「いやいやいや、いいよ高島さん、見た目程深くないし」 助けるはずだった人に気を使われているこの現状どうしようか・・・。 「一応よ。一応、何もないことが一番なんだから、・・・でさ、由季ちゃんこちらの方は?体操服を来てるってことはお友達なのかしら?それとも彼氏?」 ふふふ、と楽しそうに質問してきた。 おいおい、この高島さんという女性、さっきまで男に家に押し入れられてたんだぞ。メンタル強すぎないか。 「全然ちがうよ高島さん。彼氏でもなんでもないよ、むしろさっき知り合ったお兄さん。あとこの人は22歳。」 「おやまぁ・・・」 びっくり高島さん。 おい、他にも色々説明することがあるだろう、何故年齢だけ言うんだ。 「えーと・・・まぁ、ついさっき知り合いまして、経緯はちょっと省かせていただきますが、服が今無い状態なんです」 で、体操服を着ているんです。 なんて酷い説明だ。 「おやまぁ・・・」 再び、びっくり高島さん。 「でも、困ったわねぇ、私が男の服を持っていたらいいんだけど・・・あ、そうだ、何なら買ってきましょうか駅前にユニクロがあったハズ」 「いやいやいやいや」 新島と綺麗にハモった。 今、この人なんて言ったよ 「高島さーん?30分前に自分に起こったことを思い出してみ?」 「でも由季ちゃん、この方困っているし・・・男性なのに女子高生の体操服を着せられているって結構恥ずかしいことでしょ?」 おっほほほほ、高島様、常識があるのかないのか、無自覚なのかどうなのか。 とりあえず、俺のメンタルをピンポイントでえぐることには成功している。 「まぁ、服自体は私のところで洗濯完了しているから大丈夫だよ、そんなことよりぃ〜」 しなしなとしなりを作る由季。 「さっきのこと詳しく話してくれないかな?もしかしたら助けてあげれると思うしぃ〜」 「え?」 こっちを見ないで高島さん。 「コッホン・・・」 わざとらしく咳払いをひとつ。 「話の前にやることはあるだろう」 2人の注目を集める、1人は困惑、1人は話を中断させやがってという瞳だ。 「部屋に飛び散った窓ガラスの掃除!あと新島は今すぐ病院だ!どんな小さなキズでもベニヤと窓ガラスを蹴破ったんだ、破傷風になったらヒーロー人生終わるぞ!」 新島は分かりやすく顔を青ざめた。 あれから、窓ガラスに簡単な応急処置と部屋の掃除をして3人で近くの診療所にきた。 さすがに窓フルオープンかつ、近くで不審者がうろついているかもしれないあの部屋に、高島さん1人を残しておくことはできなかった。 診察後は既に包帯でグルグル巻きだった足が、さらにボリュームを増して帰ってきた。 余談だが、医者に原因を聞かれた際に新島は正直に答えたもんだから心配されたもんだ。 頭のな。 「さてと、これから作戦会議だね」 松葉杖をつきながらだというのに随分と彼女は元気だ。 「作戦会議じゃない。それは明日だ。もう時間も遅いし今夜高島さんはどこかホテルに泊まってもらって、明日警察に被害届を出しにいこう」 パチパチと新島のまばたきが聞こえた。長いまつげなもんだから本当に聞こえてきそうだ。 何か言いたげに俺を見上げる。 「なんだ?異論は認めないぞ」 「・・・ううん!全然!じゃあ作戦会議は明日!今晩はお泊まり会だね!」 「へっ?お泊まり会?」 えらい可愛らしい単語が聞こえた 「そう!あの部屋に高島さん1人は心配だし、私もこの怪我があるし、だったら3人一緒にいるほうが何かと良いんじゃない?」 「んー、それもそうね由季ちゃんの提案に乗るわ!・・・あは私お泊まり会っていつぶりかしら何だかワクワクしちゃう」 えへへと笑い合う2人。 「は?ナチュラルに俺もそのお泊まり会のメンバーなのか?」 「もちろん」 「いやいやそれは困る。第一に俺は明日用事があるんだよ」 就職活動という試練がな!
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