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 甲斐の頬に触れると、甲斐は突然の事に動転したのか後ずさり、よろめいて勉強机に後ろ手をつく。  俺が一歩踏み出すと、更に逃げるように身を引き、机に片ひじをついた。  それで甲斐の頭の高さが俺の目線と同じ高さになって。  俺の頭は、磁石のように、甲斐に引き寄せられた。  止まろうとしたけど、頭が重くて、体が言うこときかなくて、抵抗することが出来なくて、俺は甲斐の大人びた唇に、キスしてた。  甲斐が身を捩り、机の上のプリントがバサリと妙に大きな音を立てて落ちる。  その音で俺は正気に返って、甲斐から体を引き剥がした。  ……何?  俺、何した?  思わず、手の甲で口許を拭う。  甲斐も驚いた表情で、口許に手の甲を当てた。  俺はあわてて文句を言った。 「甲斐が悪い!」 「なんでだよ!」  反論に、たしかにそうだよなと思いながら、やっぱり甲斐が悪いと思う。  甲斐がそんなオーラを出してたから悪い。  甲斐はたじろぎながら言葉を絞り出した。 「実、俺のことなんとも思ってないんだろ?」 「今のは俺がどうこうじゃなくて、甲斐が」 「突拍子のないコトしたのは実じゃないか!」 「甲斐が変なこと言って急に色気出してきたんだぞ!」  二人しばらく混乱しつつ意味のない言い争いをして、俺はふいに笑いが込み上げてきた。  笑う俺を見て、甲斐は更にうろたえる。 「なんだ?」 「俺達さ、やっぱ似てるのかな」  同じテンションで言い合いしてた。  好きな音楽も好きなテレビも好きな本も、好きな色も好きな食べ物も、好きな友達も好きな先生も同じで、一緒にいて心地いい友達。  甲斐は真剣な顔で、それを肯定した。 「そう、なんだよな。だから俺、実のこともっと知ったら、俺の好きなものにたくさんたどり着けると思って、最初は興味なかったことも実に合わせたんだ」  そう言えば、甲斐の知らないアーティストのCDや雑誌、めいっぱい甲斐に貸した。  新しく見つけた歌とかたくさん聴かせて、甲斐はいつも『俺の趣味だった』って笑った。  俺は自分のコトが認められたようで、嬉しかった。 「思った通り、実が好きなものは、全部俺の好きなものだったから」  俺の中に浸透する、甲斐の気持ち。  一緒にいるのが楽しい、一緒にいたいって、気持ち。 「俺も甲斐が好きなもの、好きだよ」  甲斐の頬にもう一度手を当てる。  このままでは無茶しないと届かない甲斐の唇を見上げたら、甲斐は少し困った顔をしたまま、俺にキスをしてくれた。  俺は手が届くうちに甲斐の首に腕を回し、キスを返す。 「早く教えてくれればよかったのに。俺の考えること、甲斐と同じだよきっと」  至近距離で見つめ合う形になって、甲斐はまだ困ってて、でもきっと照れてるからで、俺も自分で同じ顔してるのわかる。 「甲斐が俺を好きならさ、俺は甲斐が好きになるんだよ、きっと」  さっきまで甲斐の気持ちを受け入れられるのか疑問だったのに、俺に遠慮する甲斐の真剣な気持ちを、俺がほしくてたまらなくなってる。  じっと見つめたら、すぐに気持ちが通じたのかな、甲斐は俺の背中に手を回して抱き寄せてくれた。  大人びた表情で微笑むから、すごいカッコよく見えて、俺も甲斐が好きだなって、思った。    なんで気づかなかったんだろう、こんなに大きな気持ち。  俺、鈍感すぎるだろ。  でもだから、教えてもらえてホントによかった。  これからも俺の好きなこと知ってほしい。  甲斐の好きなものもたくさん知りたい。  今までも一緒にいるの、すごい楽しかったけど、これからはもっと楽しくなるって、予感がした。 了
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