7人が本棚に入れています
本棚に追加
七
甲斐の頬に触れると、甲斐は突然の事に動転したのか後ずさり、よろめいて勉強机に後ろ手をつく。
俺が一歩踏み出すと、更に逃げるように身を引き、机に片ひじをついた。
それで甲斐の頭の高さが俺の目線と同じ高さになって。
俺の頭は、磁石のように、甲斐に引き寄せられた。
止まろうとしたけど、頭が重くて、体が言うこときかなくて、抵抗することが出来なくて、俺は甲斐の大人びた唇に、キスしてた。
甲斐が身を捩り、机の上のプリントがバサリと妙に大きな音を立てて落ちる。
その音で俺は正気に返って、甲斐から体を引き剥がした。
……何?
俺、何した?
思わず、手の甲で口許を拭う。
甲斐も驚いた表情で、口許に手の甲を当てた。
俺はあわてて文句を言った。
「甲斐が悪い!」
「なんでだよ!」
反論に、たしかにそうだよなと思いながら、やっぱり甲斐が悪いと思う。
甲斐がそんなオーラを出してたから悪い。
甲斐はたじろぎながら言葉を絞り出した。
「実、俺のことなんとも思ってないんだろ?」
「今のは俺がどうこうじゃなくて、甲斐が」
「突拍子のないコトしたのは実じゃないか!」
「甲斐が変なこと言って急に色気出してきたんだぞ!」
二人しばらく混乱しつつ意味のない言い争いをして、俺はふいに笑いが込み上げてきた。
笑う俺を見て、甲斐は更にうろたえる。
「なんだ?」
「俺達さ、やっぱ似てるのかな」
同じテンションで言い合いしてた。
好きな音楽も好きなテレビも好きな本も、好きな色も好きな食べ物も、好きな友達も好きな先生も同じで、一緒にいて心地いい友達。
甲斐は真剣な顔で、それを肯定した。
「そう、なんだよな。だから俺、実のこともっと知ったら、俺の好きなものにたくさんたどり着けると思って、最初は興味なかったことも実に合わせたんだ」
そう言えば、甲斐の知らないアーティストのCDや雑誌、めいっぱい甲斐に貸した。
新しく見つけた歌とかたくさん聴かせて、甲斐はいつも『俺の趣味だった』って笑った。
俺は自分のコトが認められたようで、嬉しかった。
「思った通り、実が好きなものは、全部俺の好きなものだったから」
俺の中に浸透する、甲斐の気持ち。
一緒にいるのが楽しい、一緒にいたいって、気持ち。
「俺も甲斐が好きなもの、好きだよ」
甲斐の頬にもう一度手を当てる。
このままでは無茶しないと届かない甲斐の唇を見上げたら、甲斐は少し困った顔をしたまま、俺にキスをしてくれた。
俺は手が届くうちに甲斐の首に腕を回し、キスを返す。
「早く教えてくれればよかったのに。俺の考えること、甲斐と同じだよきっと」
至近距離で見つめ合う形になって、甲斐はまだ困ってて、でもきっと照れてるからで、俺も自分で同じ顔してるのわかる。
「甲斐が俺を好きならさ、俺は甲斐が好きになるんだよ、きっと」
さっきまで甲斐の気持ちを受け入れられるのか疑問だったのに、俺に遠慮する甲斐の真剣な気持ちを、俺がほしくてたまらなくなってる。
じっと見つめたら、すぐに気持ちが通じたのかな、甲斐は俺の背中に手を回して抱き寄せてくれた。
大人びた表情で微笑むから、すごいカッコよく見えて、俺も甲斐が好きだなって、思った。
なんで気づかなかったんだろう、こんなに大きな気持ち。
俺、鈍感すぎるだろ。
でもだから、教えてもらえてホントによかった。
これからも俺の好きなこと知ってほしい。
甲斐の好きなものもたくさん知りたい。
今までも一緒にいるの、すごい楽しかったけど、これからはもっと楽しくなるって、予感がした。
了
最初のコメントを投稿しよう!