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一
梅雨晴れの午後。
教科書ノートの入ってないスカスカなリュックを背負って(学校のロッカーに全部入れてきた)、清々しい気分でクーラーのガンガン効いた電車に乗り込んだ。
今日で期末試験終了。
もうテスト勉強しなくていいんだ、そしてすぐに夏休みがやってくる。
夏休みの宿題のことは一時忘れてもバチは当たらないよな。
「ここ空いてるぞ」
進行方向向きの海側、俺の好きな席を指して甲斐が手招きをする。
俺は先に座った甲斐に遠慮なく、勢い良く座席に身を沈めた。
「疲れたぁテスト」
大息を吐いて、目をつぶる。
陽射しはキツイがクーラーで寒いくらいの車内には丁度いいくらいで、テストで燃え尽きた俺はそれでだいぶ癒された。
「おい、寝るなよ」
甲斐の声に、危うく熟睡するところを助けられる。
でもまだ半分は睡眠モードだ。
「あぁ、もう眠くて眠くて」
「また乗り過ごすぞ」
「イヤなこと思い出させるな」
伸びをしていると、甲斐はカバンからスマホとイヤホンを取り出した。
「レクスの新しい曲配信されてたぞ、聴くか?」
「聴く聴く」
イヤホンの片方を左耳に押し込むと、甲斐は右耳にイヤホンを装着してスマホを操作する。
レクスの派手な曲調が、俺の眠気を散らしていく。
「いいね」
「そうだな」
甲斐とはやっぱり趣味が合う。
音楽だけじゃなく服とか本とかテレビとか、価値観が似ていて、話していて『そうそう!』ってことがたくさんあって奇妙でおかしい。
高校に入ってからのまだほんの少しの付き合いの友人。
甲斐は知的な見た目で、見た目通りテストの成績が良くて、ブレザー来てると男子校生っていうかやり手の新人サラリーマンっぽいと俺は時々思う。
高校の制服来てても中学生と間違われる俺なんかと並んでると、遠目に見ると『きみたち親子?』って雰囲気らしい。
「おぅ、テストお疲れ」
急に頭上から声がかかる。
頭を右斜四十五度傾けると、声の主を確認する前に頭頂部をガシガシと、豪快に掻き回された。
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