黄金の鯨

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黄金の鯨

 空に、黄金色の鯨が舞い上がる。森の木々を蹴り上げながら、ナナソルは鯨を追った。あれを仕留めなければ、ナナソルの愛しい姫君の命はない。  たおやかなる百合と称される美貌のリリン姫は、あの黄金の鯨に乗って天上の世界に召されることになる。  黄の鯨は人々の死を司る存在。それに心を奪われれば、それすなわち死を意味するのだ。  そもそも死を司る黄金の鯨が姫を見初めるなど、今までになかった出来事だ。歴代の王族たちはあの空を飛ぶ巨大な生き物を狩り、人々を『死』から守ることで、王位を守ってきた。  王が変わるとき、それは世界の変革すらも意味する。その変革の恩寵により、人々は逃れえぬ死という楔からひととき解放されるのだ。  ナナソルは鯨狩りの奴隷だ。その奴隷が、黄金の鯨を狩ってしまった。そうしなれば、愛しき姫君をナナソルは守ることができなかった。  その鯨が再び、姫君を求めて地上へとやってきた。  鹿のように細く、だが引き締まった足の臑に力を入れ、ナナソルは森の木々を蹴り上げる。褐色の肌を纏う彼の体は宙を舞って、銀の髪を巻き上げながら森の木々を疾駆するのだ。   ナナソルの背には鯨の牙を鍛え上げ、作り出された巨大な銛が担がれている。これで黄金の鯨を捉えるのだ。  駆ける。木々を蹴り、ナナソルは宙を躍動する。  すべては愛しきリリン姫のため。彼女を救うために、ナナソルは鯨を狩るのだ。
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