プロローグ 知られざる物語

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儀式では、神社で言う神主や巫女のような存在二人が子供の後を守るようについてくることに決まっていた。 儀式を行う日は、子供が十歳を迎えた年の一番風の強い新月。 足音を立ててはいけない。 儀式には、健康な一族が全員立ち会う。 子供は必ず石畳の道を歩き、用意された決まった服を着る。 私服は許されない。 紙神妖具の約二メートルから二メートル半の位置まで来たら、両膝をついて指を組み、目を閉じて村の平和と幸せを祈る。 そして立ち上がり、ブレスレットをつけ、手渡された鈴を決まった方法で鳴らしてからブレスレットをもとに戻す。 選ばれた子がつけるとブレスレットははずれなくなるとか、祈った時に家が吹き飛ぶような風が吹くとか、ブレスレットが浮き上がってその子供の手首におさまるとかいったような言い伝えもあり、実際にブレスレットがはずれなくなった子供は数百年以上前に何人か現れた。 しかし、ブレスレットが自己の意識で子供の手首にはまったり祈りの際に強風が吹くなどは前例がない。 それに、ブレスレットに選ばれるものは数千年に一人、少なくても数百年に一人と言われる。 ブレスレットの力が強大であるだけに、選ばれる人間の割合も少ないのだろう。 この儀式を行う一族の暮らしは、特別な族というよりは田舎のご隠居に近いものだった。 他の田舎とほとんど変わらず、違いといえば儀式くらいのものだ。 電化製品もほとんどないがTシャツやスカート、背広なんかは普通に見かける。 いや、違っているところがもう一つあった。 それは、一族の力だ。 あらゆる術を操る力。 この村に昔から伝わり、誰もが使える能力。 ほとんどの物は操ることができ、術も使える。 たった一つ使えないのが闇術といって、名前通り闇を使った術だ。 しかしブレスレットは黒石にちなんでか、選ばれたものがつけると闇術が使えるようになる力があった。 でもそれ以外の者がつけるとただのブレスレットなので、盗難などは例を見なかった。
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