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そして、今日儀式に参加するのは暗爽(あさわ)という少女。
一族の歴史上最も優れた術を使う美少女だった。
髪は長く美しい色をしていて、クシは通してあるのだろうがいつもボサボサだ。
しかし今日ばかりはキチンととかされてサラサラになり、真っ白な細い紙で一つにまとめられていた。
服装は、白と赤の巫女のような恰好。
色の白い肌が、闇夜にくっきりと浮かび上がる。
暗爽は足音を全く立てずに紙神妖具まで進んでいき、正座をしてから腰だけを上げて両膝で立った。
指を静かに組み合わせ、瞼を閉じる。
するとその数秒後、木が大きくしなった。
家の屋根がほとんど飛びそうになり、さっきよりも格段に強い風が村を吹き荒れる。
暗爽の長髪が強風に激しく踊るが、暗爽は気にも留めていない様子で、唇を結んだままだった。
目も開けようとしない。
そして微動だにしないのは、暗爽だけではなかった。
あの黒い星型の石のブレスレットも、全く風の影響を受けていないようだ。
村人が、言い伝えは本当だったのかとざわめきはじめる。
ちょうどその時に暗爽が瞼を開け、周りは一斉に静まった。
立ち上がった暗爽に、鈴が手渡される。
ぼんやりと春霞の中に光る月のような、冷たく優しい銀色の鈴。
目が覚めるような真っ赤な棒の先に、その鈴は取り付けられていた。
受け取った暗爽が、儀式通りブレスレットに手を伸ばす。
ところが暗爽の手が触れる前に、ブレスレットはゆらりと浮き上がった。
そのままスウッと暗爽の手首におさまる。
風が吹いた時点で暗爽が選ばれたのは想像がつく。
当然の事といえば当然のことだが、一族はさっきよりも勢いづいてざわめいた。
ひそひそ声が次第に広まる。
暗爽はブレスレットのはまった自分の手首を数秒見つめた後、周りの反応を確かめた。
その視線は、村の長のところでとまる。
普通長といえば男や老人を思い浮かべそうなものだが、先代の長が亡くなってからはまだ随分と幼いその娘の灯君(ともしびのきみ)が長を務めていた。
灯君は暗爽の視線に気づき、こっくりとうなずく。
「構わぬ。儀式を続けろ。」
暗爽はその言葉を聞くと、すぐに鈴を持ち直し、決まり通りに鳴らした。
澄んだ音色が、暗闇に吸い込まれ、響き、とけていく。
鈴が鳴らし終わった。
暗爽はブレスレットをはずそうとするが、予想通り取ることはできない。
今度は、流石にざわめきも起きなかった。
辺りはシーンと静まり返り、誰も物を言おうとしない。
暗爽は見事手首にはまったブレスレットを眺めた後、その手から力をぬいた。
息詰まりそうなくらい静かで、重たくて、期待に満ちた空気が辺りをただよう。
初めに声を発したのは灯君だった。
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