プロローグ 知られざる物語

5/6
前へ
/8ページ
次へ
「儀式は終了じゃ!そなた達皆家へ戻れ!暗爽は残っておれ、ブレスレットの事はわらわと話し合うことにしよう。」 儀式は終了という言葉に、一気に空気が緩んだ。 足音と話声が、どんどん遠ざかっていく。 やがて残っているのは、暗爽と灯君だけになった。 「灯君様、このブレスレットは……。」 「気にするでない、暗爽。済んだことじゃ。」 そう言って、ニイッと笑って見せる。 言葉遣いはどこで覚えたのかまるで戦国時代の姫のようだが、やはり年齢的には人生で最も人懐っこい時期なのだろう。 まだ反抗期の遠い幼い少女の笑顔は、人を安心させる。 「暗爽、もしやわらわがブレスレットに選ばれなかったので気を遣っておるのではあるまいな?」 「えっ……。」 見事に考えていたことを言い当てられ、暗爽は一瞬戸惑った。 灯君はまだ十歳ではなく、儀式もやっていない。 だから可能性はあるのだが、選ばれる者は数百年に一人と言われる。 暗爽が選ばれた今、少なくとも今いる子供たちが選ばれた者である確率は一気に低くなり、ゼロになってしまったともいえた。 「ふむ、やはりそうか。だが、わらわは特に気にしておらぬ。もともと、暗爽が選ばれた人間なのではないかという噂は広まっておったし、わらわもそう感じていたからの。遠慮したり嫌がったりなどはするでないぞ。ブレスレットに選ばれたというのはとても名誉で自慢できることじゃ。恥ずかしがるのではなく、誇ればよい。」 まだ十歳にもならないとは到底思えない優しく温かい言葉に、暗爽は心の奥にポッと灯がついて、温かくなったような感覚をおぼえた。 「はい。ありがとうございます!」 「せっかく闇術が使えるようになったのだから、使いこなせるまでしばらく修行をしてはどうじゃ?そなたの事であるから、すぐ扱えるようになるじゃろう。」 「はい。」 「ブレスレットが暗爽を選んだのには理由があるはずじゃ。決してその理由は悪いものではあるまい。悪事には使わず、あくまでも人に役立てる事じゃ。」 「分かりました!いろいろとありがとうございます。」 そう言って、暗爽は天使のような微笑みをうかべた。 「……まあ、分かればよい。」 人に感謝されるのに慣れていない灯君は、照れたように赤面してそっぽを向いた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加