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小さめのサイズのリボンがついたピンクのパーカーを羽織り、足元はコバルトブルーのジーンズをはき、いつも通り髪はボサボサ、手にはブレスレットといういで立ちで、暗爽は散歩にでかけた。
レイフは緑色のエメラルドのような瞳をきらつかせ、楽しそうに散歩をしている。
穏やかな顔の人が、ゆらゆらと町の中を移動している。
暗爽は、一軒の店に目をとめた。
「あのお店、いつできたのかしら?最近工事をしていたと思ったら、猫カフェなんて造っていたのね。レイフ、言ってみる?お友達がたくさんいるわよ。」
暗爽はそんなことをいいながら、レイフを振り向いた。
「レイフ?」
レイフの体毛が真っ黒に変わっている。
その視線の先には、平凡な服装で目立たない顔立ちのサラリーマンがいた。
「……行くわよ。」
暗爽が声をかけると、レイフは勢いよく走りだした。
路地にすべりこみ、
「フギャ―――!!」
と悲鳴を上げる。
一斉に人が振り向く中、サラリーマンは何の反応もせず歩き去ろうとした。
その肩に、全てを確信した暗爽が手をかける。
周囲の視線が路地に向いているうちに攻撃を仕掛けるのは、いつものやり方だ。
サラリーマンの肩がびくっとふるえた。
「なっ……何の用かな?」
暗爽は無言でサラリーマンをにらみつけた。
「罰よ。」
一言だけそう言って、暗爽は手のひらをサラリーマンにかざす。
たちまちのうちに、サラリーマンの体を闇の霧がつつみこんだ。
「わっ、なっ、何だこれは!助けてくれ!」
「何の恨みもないけど、闇に関わってるのね?」
「うっ、うう……。」
「さようなら。」
一言一言区切るように声を発して、暗爽はくるりと向きを変え、歩き出す。
その胸に、レイフが飛び込んできた。
「レイフ……今回もよくやったわね。帰ったらご褒美をあげるわ。」
「ニャン!」
嬉しそうに一声鳴いて、レイフが暗爽の顔を舐めまくる。
「きゃあ、くすぐったい!きゃはは、やめてよ、レイフ。」
はしゃぐ一人と一匹は、気持ちよく家に帰る。
レイフに「ご褒美」をあげて朝食のトーストを食べながら、暗爽は、テレビをつけてチャンネルをニュースに合わせた。
化粧の厚い初めて見る顔のニュースキャスターが、甲高い声でニュース原稿をがなりたてているところだった。
「次のニュースです。闇ルートで大麻や覚せい剤などの薬物を売買していた会社員の○○が、今朝大通りで奇声を上げているところを近所の人に追放され、逮捕されました。彼は奇声を発していた理由について……。」
<fin>
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