あかいろデイズ

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『ななこは、眼に障害があるんです。……色は、赤い色しか見ることができなくて。他の色は全部モノクロにしか見えなくて……あんまり暗さの違いもわからないから。夜暗くなると、普段の道の景色も見づらくなって、迷子になってしまうことがしょちゅうあるんです。……一年生の頃とかは、先生からみんなに話してもらっていたんですけど……周りには、ななこのそういう症状が、なかなか理解して貰えなくて。眼が見えないわけでもないですしね。……それで冷たくされるのが嫌だから、みんなに話すのはやめてほしいと……ななこにもそう言われてしまって』  そう、それが真相だったっていうわけ。  彼女が赤が好きだったのは、赤だけが彼女が知っている特別な色だったから。彼女には、それ以外の色は何一つ見ることができなくて……好きなものや、“カラフル”だと信じているものは全部、赤で塗ることしかできなかったからだったんだよ。  彼女が赤で塗るものは、彼女が好きなものや……好きになりたいと思っているものだったんだ。  僕は心底後悔したよ。何も知らないで、酷いことを言ってしまったってね。変だなんて言ってしまってごめんなさいって、ちゃんと謝らなくちゃいけないって思ったよ。  みんなと一緒に、今日彼女と別れた場所の近くまで行って、必死に探したんだ。  謝って、それから。赤で塗るのはおかしなことじゃないよって、ななこちゃんが一生懸命塗る赤い色は綺麗だよって、そう伝えるために。  捜している間、僕はずっと考えていたよ。赤しか見えない世界ってどんなものだろうって。さっき話をしたけれど、赤いものってたくさんあるようでいてそんなに数が多いものでもないと思うんだ。というか、それ以外の色がこの世界にはたくさん溢れていて、赤色なんて本当にその一部でしかないからってことなんだけど。  だから、彼女には殆どの世界はモノクロにしか見えない。モノクロな世界を想像して、僕はとっても怖くなった。きっと、カラフルな世界よりも、暗い夜道は怖くて寒いものに違いないって、そう思ってね。……勿論今は、それが全てではないと知っているけれど……あの時の僕はそう思って、本当に自分の言葉を反省していたんだよ。  そして、ある場所に気づいた。  『危険、立ち入り禁止!』の看板。沼のフチの、一番滑りやすいところに立っていた看板なんだけど、あちこちサビだらけで文字もハゲちゃっててすごく読みにくくなってるんだよね。  特に、ああいう看板を見たことのある人は知っていると思う。赤い文字で“危険”って書いてあるけど、その赤い文字が一番おひさまの光で焼けて読みにくくなってしまうんだよね。  その看板も同じだった。赤文字だったところは、ほとんどうっすらになっていて読めない状態になっていた。黒文字だけは残っていたけれど、きっと彼女の眼には想像以上に読みづらいものになっていたことだろう。  僕はこの近くに彼女がいるはずだと確信したよ。きっと看板が見えなくて、近道をしようとして滑り落ちてしまったに違いないって。大人の人たちと一生懸命、一生懸命彼女を捜して回ったんだ。何時間かけても絶対に見つけるぞっていうくらいの気持ちでね。
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