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次の日もまた教室の真ん中で影斗を呼ぶ声が響く。
「最近マジでいなくなるんだけどー、かげとー!」
もしかしたら、と僕はいつもより早く美術室に向かった。
「いた。」
彼はまた僕に気づかず、ただ真剣に絵を描いていた。
後ろの席に静かに座る。
こんなかっこいい彼と、平凡で地味な僕が、この小さな教室に2人きりでいるなんて・・・しかも彼はクラスの人気者・・・。
「陽太?大丈夫?考え事?」
声にはっとして顔を上げると、目の前に影斗の顔があった。
ビックリした僕は椅子から落ちた。
「大丈夫!?」
「うん。ごめんね。」
「陽太、これ描いてる人の本ってある?」
そういって影斗がスマホの画面を見せてくる。
「あ、これ・・・」
僕も好きな画家さんだ。
「ない?」
影斗は不安そうに声色を変える。
「ううん。あるよ。」
僕は慌てて返事を返す。
「俺、見た目こんなだけどさ、絵描くの好きだし、作品集とか見るのも好きなんだ。
本当はこうやって同じ趣味のやつとたくさん喋りたいんだけどさ。
絵の事とかバカにされたら立ち直れなそうだからさ。
あいつらには黙ってるんだ。」
影斗にも不安になったり上手くいかないことがあるんだな。
「そっか・・・。
でも、みんな影斗の作品見たら、バカにするとかできないと思うな。
影斗の作品はすごく綺麗だから。僕は影斗の絵、好きだよ。」
ふと影斗の方を向くと顔が真っ赤になっていた。
それは薄暗い倉庫の中でもわかるくらいに。
「影斗?顔・・・」
「ごめん。ちょっと見ないで。はず・・・」
僕はまた素直に言葉を並べてしまったのか。
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