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それから何日か影斗が美術室に来ない日が続いた。 初めて話した日からほぼ毎日来ていたのに、ここ1週間姿が見えない。 「静かだな・・・。」 僕の口からもれた言葉は誰かに届く訳でもなく、すぐに消えていった。 僕はいつも一人でお昼を食べる。 別に友達がいない訳じゃない。 だけど一人で食べる。 お弁当を持っていつもの場所へ行く。 中庭。植木のそばの日陰。 お気入りの場所を邪魔されたくないのだ。 移動中はたくさんの人とすれ違う。 僕の存在には目もくれず。 そんな時、2人の女子がなぜか体育館に走って行った。 「ねえ!かげとが練習してるってホント!?」 「うん!明後日、大きな大会があるから追い込みかけてるんだって!!」 「・・・大会・・・」 そうだ影斗は2年、バスケ部のエースだった。 バスケかぁ・・・。 「練習じゃあ、しばらく美術室には、来ないな。 ・・・・・・・・・・・・会い、たい。」 ・・・え? 僕、今、何て言った? ないない。友達にだって深く干渉してこなかったのに、今更・・・ね? 僕は自問自答を繰り返し、一人で首を横に振っていた。 ガラガラ!バンッ! 「陽太!!」 突然大きな声で呼ばれビックリしながらも振り向いた先には、影斗が肩で息をしながら立っていた。 「影斗?練習中じゃ・・・」 「うん。今、休憩中、・・・でっ! すぐ戻んなきゃなんだけど・・・どうしても、今日、伝えたくて!」 苦しさで喋りにくいのか、少しイライラしながら話しているのが見てわかる。 「・・・何?」 「あのさ!明日の大会。見に来てほしいんだ。」 「え・・・いいの?」 急な誘いにビックリしながらも、影斗のバスケ姿を見たいと思った。 「もちろん!絶対だよ!約束だからね!」 「う、うん!」 「じゃあ、また後で!」 バスケの大会か・・・・・・。 影斗はあっという間にいなくなってしまった。 大会当日。 僕は重い足取りで体育館に向かっていた。 ちょうど第1Qが始まったところだった。 1番遠くの席だけど、影斗だけはすぐにわかった。 キラキラしてる。 ピピー 第2Q終了。38-30で勝ってる。 「ダメだ。」 帰ろう。これ以上観てたら、やりたくなる。 「っ陽太!」 僕を呼ぶ、少し息の切れた声。 「影、」 僕の言葉が最後まで出る前に。 「帰らないで。最後まで見てって。お願い。」 背中で息してる。 「・・・・・・ごめん。」 長く感じた沈黙のあと、僕は謝った。 「かげと!監督呼んでる!」 チームの人が遠くから呼んでいる。 「・・・ミーティング、でしょ。頑張って。」 影斗の背中は見送らずに僕は体育館を後にした。 帰り道。 行きにはわからなかった公園に、バスケコートがあるのに気が付いた。 ボールもある。 1球だけ。そしたら帰ろう。 3ポイントラインから一歩内側。そこから投げる僕の球はそのままゴールへと吸い込まれた。
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