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「陽太―?いるー?」 美術室の扉が開く前に僕は隠れた。 「おさまれ、おさまれ。」 影斗を無視するたびに胸が詰まる感じで息が上手くできなくなる、苦しい。 「おーい。佐丸。最近、かげととつるんでねーじゃん。偉いねー。」 この人たち、僕の頭を撫でてくる。 「佐丸は下の名前、陽太だっけ。 陰キャなのに陽太なんて。母さんかわいそうだなーW」 何も言い返せなかった。 お願い、早くどっかいって。涙が、こぼれる・・・。 「じゃあ知らねー方がいいな。」 急に聞こえてきた声に顔を上げると、目の前に影斗の背中があった。 「何がだよ。かげと、そんなヤツほっといて遊び行こーぜ。」 「陽太の笑顔は太陽みたいなんだよ。知らなかったろ。 お前らさー、名前いじって楽しいか? 俺は影斗だし、お前らとは遊ばねー方がいいな。」 「かげとはいいんだよ、なあ?」 「何が気に入らないんだか知らねーけど、いいかげんにしろ!」 影斗の冷たい矢が彼らの心に刺さったはずだった・・・。 「ごめん、影斗。」 背中に呟き、僕は走って逃げた。 それから1週間は懲りずに彼らはやってきた。 「佐―丸―くん。今日も絵描いてんのか? かげとは?居場所くらい知ってんだろ。」 「・・・知らないよ。最近喋ってないし。」 「嘘つくんじゃねーよ。」 そういって彼らは僕の美術道具を床に落として去って行った。 「陽太。どーしたの?」 「か、影斗。 ああ。これ?さっき、躓いちゃって。」 「あれから、大丈夫か?」 僕のことを心配してくれていた。 「うん。何ともないよ。ありがとう。」 僕は嘘をついた。僕は影斗を無視していた。 ひどいことをしたのに、その上心配までさせているなんて。 会話数を減らすため、僕は無言で拾いだす。 その空気を感じ取ったのか、影斗はすぐに教室を去った。 「佐丸。楽しいか?毎日毎日、絵描いててさ。」 「その絵なんかーものたりなくね? 俺が足してやるよ。」 そう言って僕の返事も聞かずに平筆をとってパレットの黒で画面を塗りつぶした。 止めようとする僕の体は羽交い締め。 「やめて!!」 「はーい。完成!よくなったろ?じゃーなー。」 よりによって1番自信があった作品に・・・。 僕は絵の下書きやデザイン案を残さない。 その場その場で考えるから、同じものは描けない・・・ 「・・・っ」 勝手に涙が出ていた。 涙をふいた直後に影斗が入ってくる。 「陽太。ちょっと話したいことがあるんだけど・・・、何それ・・・。」 僕の目の前の、半分以上を黒で覆われた画面をみて影斗は言葉を失いかけていた。 「・・・ちょっと上手くできなくて・・・自信なくなった・・・から」 僕はまた嘘をついた。 「泣いてんじゃん。あいつらだろ。やっぱまだやってたのか。」 「・・・違うよ。本当にっ」 「こっち見て!」 横から影斗の少し大きな声。 「俺の目、見て。なんで嘘なんかついた?」 影斗と目を合わせたら涙がさらにこぼれた。 「陽太?」 「だって。・・・僕、最低な事した。無視した。 なのに助けてくれて、でも、逃げて、心配までさせて、・・・だから。 影斗に、迷惑・・・かけたくない。」 「・・・俺さ迷惑だと思ってたら助けないし、毎日ここに来たりしないよ?」 少しの沈黙のあと、影斗ははっきりと返事を返す。 「・・・ごめん、ごめん・・・ごめんなさい。」 僕はずっと謝った。 「大丈夫だよ。陽太、俺、怒ってないから。」 その日は目をヒリヒリさせながら帰った。
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