Last Vision 未来に花束を

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 遠くに黄色い花が見える。なんの花だろうと近づいていくとみるみるうちにその花は枯れてていった。鮮やかな黄色から薄暗い黄色に変化していく。  そこで目が覚めた。  枕元の時計をみると六時五十八分を表示している。七時にセットした目覚ましが鳴る前に津田一郎は目をさました。手をのばして目覚ましのスイッチを切ったあと隣に寝ている妻の様子をみる。洋子はまだ寝ていた。そのまま背伸びをするとポキポキと肩の骨が鳴った。寝起きのからだのこわばりが少しずつほぐれてくる。ようやく布団から起きあがることができそうだった。  新婚の頃は妻を起こさないようにそっと静かに起きあがっていたが、いつしかそんな心遣いもしなくなっていた。もっともそんな心遣いをしなくてもいまの洋子は少々の物音では目をさますことはない。  台所までいくとタイマーで起動したコーヒーメーカーがコポコポと音をたてている。コーヒーの香りが漂ってくる。やがてコーヒーメーカーは音をたてるのを止めた。一郎は食器棚からマグカップをとりだす。コーヒーをそそいで一口飲むとようやく目が覚めた気がした。マグカップをテーブルに置いて仕事に出かける準備をしはじめる。  着替えや歯磨きとたいしたことをしてもいないのに朝の時間の速度は早い。あっというまに仕事に出かける時間が近づいてくる。タブレット端末で天気予報を調べると午後六時以降の降水確率は百パーセントだった。晴れている日ならば駅まで自転車で行っているのだが今日はやめておくことにする。日頃の運動不足もあるので駅まで歩いていこうかとも考えたが、今から家を出ても電車に間に合わず遅刻してしまう。仕方ない。バスで駅まで行こうと考えなおし、マグカップに残っているコーヒーを飲み干して流し場で洗う。結局いつもそうだった。駅まで歩いていくつもりならば前日から翌日の天気を調べてそして早めに起きなければならない。寝室まで行き、カバンを手に持ちながらまだ布団のなかで寝ている洋子に「じゃあ、行ってくるよ」と声をかける。 「いってらっしゃい」舌足らずで甘えたような口調で洋子が答える。顔をこちらに向けて言ったのかまではわからなかった。  今日もいつもと同じ一日だ、と一郎は思った。
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