第1章 雪の四月朔日

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第1章 雪の四月朔日

四月一日。 新年度の始まりには似つかわしくない、凍えるほど寒い朝だった。 前夜から降っていた雨は雪に変わり、静かな町へと舞い降りている。 道路を行き交う車も、いつも以上に慎重に運転をしているようで。どの車もゆっくりと走っていた。 降り積もる雪の中で、一際目を引く赤い光の群れ。 早朝の公園。その駐車場には、たくさんのパトカーが停まっていた。 公園の入口は、立ち入り禁止の黄色いテープが張られて封鎖されている。 その前に制服の警察官が二人並んで立っていた。 そんな彼らに頭を下げ、黄色いテープをくぐったのは長い黒髪の女だった。 彼女は舞い落ちる粉雪を払い、薄く積もった雪の上を駆けていく。 憩いの場である公園には不釣り合いな、青の群れ。 ブルーシートに覆われたその中へと、黒髪の女、天神八雲(てんじんやくも)は滑り込むように入っていった。 シートの青で囲まれた空間に、雪の上で四肢を投げ出した女が息絶えていた。 真新しいリクルートスーツのスカートから覗く素足は雪に溶けそうなほど白く、作り物のようで。 現実味のない光景に吐き気が込み上げてくるのを必死に耐え、八雲は目の前の男性刑事を睨み付けた。 「寒くて足元が悪い中、わざわざご足労頂き申し訳ありません。本日早朝、近くの交番勤務の者が彼女を見つけました」 眼鏡の奥の瞳は少しだけ憂いを含んでいたが、手帳のメモを淡々と読み上げる。 「被害者は若い女性。恐らく二十代から三十代でしょう。まだ身元はわかっていません。ご覧の通り首から上と両手を切断されていますから。どちらもまだ見つかっていません」 言われてから、彼女のスーツの袖口から覗いているはずの手首が見当たらないことに気が付いた。
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