第5章 天使の戯れ言

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つかみ所のない少女は口許を歪めて笑う。 見ているものに不安を感じさせるような笑顔だった。 「僕は天使。個体名は雲母(きらら)」 名前ではなく個体名と言ったことに違和感を覚える八雲。 邪悪に微笑む少女・雲母は丁寧にお辞儀をした。 記憶の中のはずが急に視界がぐらりと揺れる。八雲はその場に(うずくま)り、目を瞑った。 「君が過去を覗けるように、僕は未来が見える。警察に協力して事件に関われば、また僕に行き着くだろう。ねぇ、やくもん、僕を捕まえて見せてよ」 雲母の声が響く。 八雲が目を開けると彼女の姿はなかった。 代わりに、心配そうな顔がたくさん覗き込んでくる。 鳴神刑事に李菜、有栖川医師、澪。そして透と花怜までいた。 「貧血と低血糖だね、食事はちゃんととりなさい」 起きたばかりの八雲に厳しいことをいったのは、やはり有栖川医師だった。 透も同意見らしく頷いている。 「ご心配と、ご迷惑をおかけしました」 素直に頭を下げる八雲。 ここで、ちゃんと食べてますなどと反論したら食事の記録をつけて見せに来るようにと言われかねない。 経験則から察し、面倒事を回避した。 「八雲、悪い知らせがある」 話を切り替えたのは透だった。 いつの間にか病院から戻り、ラフな服装に着替えている。 透たちの真剣な表情、そして先ほど見た雲母の記憶から、事件に関することだとわかった。
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