第1章 雪の四月朔日

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「被害者の身元をわからなくするならもっと簡単な方法があるでしょうに……」 切断され持ち去られた頭部と両手。 顔がわからない上に、指紋も取れないと被害者が誰なのかを探し当てるのに時間がかかってしまうだろう。 特に頭部から得られる情報は大きい。顔だけでなく歯形などから被害者の特定に至るケースも多いのだ。 断片的な情報を公開して呼び掛けても、大して進展はなさそうだ……と、八雲は考えてしまう。 (……考えてもキリがないし、憶測だけでの判断も危険ですね) そう思った八雲は、ため息をつくと、残っていたミルクティーを飲み干した。 「そう言えば、仕事の方はいいのですか? 新年度が始まったばかりでしょう」 八雲が透を見て、思い出したように尋ねる。 ちらりと顔をみて、大学附属病院の忙しさを察したのだろう。 透の目の下にはうっすらとクマができていた。 「昨日は、日勤からそのまま夜勤に入ったんだ 。帰ろうと思った所で鳴神さんから連絡が来たからな……」 大学病院の、それも救急科の医師である透には、あまり休みがない。 今日も朝から救急車で患者が運ばれていたことだろう。 緊急性の高い患者が多く運ばれてくる大学病院は激務のはずだ。 「お疲れならわざわざ来なくてもよかったと思いますけど」 ぼそり、と八雲が呟く。 透が一緒に呼ばれる理由の一つが、八雲のお目付け役だった。 遺体に近づいたときに見えるフラッシュバックの様な映像。 それを見て倒れてしまうことがあったため、友人であり医師でもある透が一緒に呼ばれるようになった。
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