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きっかけ
それは、ノルトが働いていた宿屋で持ちかけられた話だった。
「王女の使用人、か?俺が?」
「そうだよ、お前貴族の屋敷で働いてたんだろ?だったら丁度いいじゃないか」
「確かにそうだが……俺はそこをクビになったような平民だぞ?」
「それも酷い話だよなぁ。働きぶりに問題は無いのに平民出身だからって急に追い出すなんてよぉ」
訳知り顔で頷くのは常連の商人、オースギだ。珍しい食料品を扱っているため、王城にも出入りすることがたまにあるらしい。
「なんでも王女様は人嫌いでな、ぞろぞろ使用人がいるのが好きじゃないからなるべく一人で色々とこなせる奴が欲しいらしい。お前にうってつけじゃないか」
「俺は王女がどんな人間なのかも知らないんだが?噂もほとんど聞かないしな」
「なんか病気がちらしいぞ。虚弱なお姫様の身の回りのお世話なんて、おとぎ話みたいでいいじゃねえか」
「いや、また身分でゴタゴタ言われるのはゴメンだ。あんたには悪いが……」
「それが妙なことにな、急ぎで人手が欲しいらしいんだ。俺の顔を立てると思って頼むよ!」
「……」
オースギは商人だ。王族との繋がりは保っておきたいのだろう。
渋るノルトに対し、オースギはダメ押しとばかりに声を潜め、耳打ちする。
「なんでも給金の方もたっぷり出るらしいぜ?」
「……!」
その言葉に思わず心が惹かれたのを見逃さず、オースギは畳み掛ける。
「しかも短期間で構わないらしい。こんなうまい話なかなか無いぞ?」
「……詳しく聞かせてもらおうか」
「よしきた!」
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