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衝撃の出会い
白蝶宮は小ぶりな造りの宮殿だった。病がちだった亡き王妃のために、今の王が特別に作らせたものらしい。
ものものしい警備兵が並んだ門の奥からノルトを出迎えたのは小柄な少女だった。
「オースギさまから話は伺っております。私はサナリア様の侍女、ツィニカと申します!」
「ノルトだ、よろしく頼む」
「こちらこそ、急な申し出にもかかわらずおいでいただきありがとうございます!本当に、私一人でどうなることかと……」
大げさに眉を下げて見せるツィニカの言葉に違和感を覚える。
「一人?まさかここの使用人はあんただけなのか?」
「そのとおりでございます。なにせサナリア様は、その、少々変わったお方でして……」
「……嘘だろ」
人嫌いとは聞いていたが、この規模の宮殿を自分とこの少女だけで切り盛りすることなど不可能だ。
「もちろん私も全力を尽くしますが、どうしても行き届かない部分はお目こぼしをいただいております」
「いや、お目こぼし程度じゃすまないだろう?どんなに頑張っても王女が暮らすには不釣り合いだ」
「そうなのでございます!それでもサナリア様がそうしろとおっしゃるのです!」
ツィニカは興奮したように言い募る。随分感情が表に出やすいようだ。
「オースギからは急に辞めた使用人の分の穴埋めだと聞いてるんだが、俺が来る前はどうしてたんだ?」
「ご想像通り、辞めていった執事と私の二人で掃除から炊事から何もかもこなしておりました。申し訳ありませんがノルトさんにも同じようにしていただくことになるかと」
「……無理だな」
ノルトが端的に告げると、ツィニカは大きく目を見開いた。
「!でも、オースギさまのお話では……」
「確かに俺はその手のことは一通り以上にこなせる。以前は貴族のところに勤めてたから礼儀作法もわかる」
「そのような方が必要なのです!私も最大限頑張りますので、どうか辞めるなどとは……」
「辞めるとは言ってない。まずは王女に会わせてくれ」
「さ、サナリア様にですか?それは構いませんが、少しお時間を……」
「ツィニカ、見たところあんたも平民だろ?しかも太い実家があるわけじゃない」
「ふぇっ!?それはそうですけど……と、突然失礼じゃないですか!?」
ツィニカが握りしめるスカートは飾り気のない質素なもので、とても王女付きの侍女には見えない。清潔で丈夫そうではあるものの、よく見ればかなり使い込まれており、気軽に新しいものを買えるような身分ではないことは確かだ。
「俺も似たようなものだから分かるんだ。俺たち、馬鹿にされてるんだよ」
「ば、馬鹿!?」
「たった二人で屋敷の世話をさせるなんて嫌がらせに決まってる。使用人が長くいつかないのもそのせいなんじゃないのか?」
「サナリア様はそんなお方じゃ……」
「とにかく直接会って話をする。俺たち平民は文句なんて言いっこないと決めつけてるから理不尽なことを言うんだろう」
「ちょっとお待ちくだ……待ちなさい!」
追いかけるツィニカに構わずノルトは歩みを進め、玄関からつながる階段を勝手に上がる。
「そこの階段の先の部屋が王女の私室だ。違うか?」
「え……案内もなしにどうして!?」
「表門こそ綺麗に整えていたが、勝手口には埃が溜まっていて手が回ってないのがすぐに分かった。屋敷の中も豪華ではあるが手入れが足りていない。そのなかで丁寧に手入れされている調度品を辿っていけば、ここの主の部屋しかないだろう」
「こんな短時間でそこまで……」
そうこうしているうちにノルトは目的の部屋の前に到着した。
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