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「よし! それじゃ決まりだな。これからもよろしく頼む」
そう言った氷川の傍らで、僅か浮かない表情の冰が遠慮がちに口を開いた。
「龍……本当にいいのか? その、俺――本当は今日お前に……」
「代表を降りる――なんてのは許さねえぞ?」
冰の語尾を取り上げるように、氷川はそう言った。口元にはニヒルな笑みが携えられている。当の冰は、何故分かったんだといったように、滅法驚き顔だ。
「xuanwuはお前にとって家も同然だろう? そしてスタッフたちは家族だ。皆だってお前のことをそう思ってる。そんな家を出て行くなんて許されねえだろうが」
氷川には分かっていたのだ。冰にとってあの店がどれ程大事なものかということ――、それと共に、責任感の強い彼が、今回のことを気に病んで代表を退かんとしていることもお見通しだったわけだ。
「……龍」
冰もそんな氷川の思いやりを充分理解できているから、思わずこぼれ落ちる涙を抑えることができなかった。
「龍……ありがとう……。本当に……」
涙声でうつむいた冰の肩を抱き寄せながら、氷川は微笑った。その笑顔はあたたかく、心底大事な者に向けられた、愛しさのあふれるものだった。
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