未来への招待状

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「そっか……、そうだったんだな。だからお前、遼二を……」  そうだ。氷川が遼二といる時のあの少しワクワクとした感じ、悪戯そうに笑う顔、どうにも楽しそうな様子を思い浮かべれば、何となく少年時代の彼のイメージがダブって見えるような気がしていた。瞳を輝かせながら僚一の背を追い掛ける幼き彼の姿が目に浮かぶようだった。 「すまなかったな、冰――。僚一の倅とこんな縁があったことが嬉しくて、俺は自分勝手だった。お前の元に遼二を置いて行けばお前を危険な目に遭わせることもなかったってのに……そんな大事なことにも気が回らなかった」 「……そんなこと」 「香港の兄貴にも叱責を食らったが……」 「兄上に話したのか?」 「ああ――全部じゃねえけどな。お前をさらわれて、でも無事に取り戻したってことだけな。一応、こっちで起こったことは報告せにゃならんし」  氷川が身を置いているのはそういった世界である。香港と日本、距離はあれど、些細なことでも大きな火種になりかねない。氷川は現在、この日本でファミリーの資金作りを兼ねた企業経営を任されている身だから、危ないことは少ないといえど、日々あったことの報告は欠かさずしているのだ。 「てめえの恋人をとんでもねえ目に遭わせるなんざ失格だって、きついひと言を食らったぜ」  とはいえ、兄は単に氷川の非を責めたわけではない。そこに深い愛情があるからこその叱責だということを、氷川は重々承知していた。
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