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「いや――、何も手伝わねえでメシだけ相伴に与るんじゃ申し訳ねえ。それに、俺たちはこれから香港なんだ。夕方の飛行機で発つから、そうのんびりもしてられなくて悪いんだが、一目お前さんの顔を見てから行こうと思ってな」
遼二の父親は、有り難く出された茶に口を付けながらそう言って笑った。
「香港? ――ってことは、また親父か兄貴が何か煩わせるってわけか?」
「いや――、今回は仕事絡みじゃなくてな。たまにはゆっくり休暇でもどうだって、お前さんのお父上からお誘いを受けたってわけだ」
「親父が――?」
氷川は珍しげに瞳を見開きながらも、だがあの父親のことだ。どうせ”休暇だけ”ではないのだろうと想像を膨らませながら、微苦笑してしまった。
そこへ化粧室に行っていた遼二と紫月が揃って戻って来た。
「親父――!」
「どうしたんだ? 来るなんて聞いてなかったのに。つか、もう荷物運び終わっちゃったぜ……」
二人揃って驚き顔だ。特に紫月の方は、手伝いにやって来たにしては遅過ぎだと少々スネたように口を尖らせてみせる。そんな様子に氷川が楽しげな笑い声を上げた。
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